【脚本】「その夜は身に染みたか」(長編60分)
■登 場 人 物(3名)
・ イ ー サ ン
・ ヴ ォ ル ( ア ル バ ー ト)
・ フ レ イ ア
■ あ ら す じ
炭 鉱 夫 の イ ー サ ン と ヴ ォ ル は 、 古 び た 廃 坑 に 存 在 す る 隠 し 通 路「鼠の 隠 し 路」を見 つ け 出 し 、 つ い に「街 を 棄 て る 計 画」を 実 行 す る 。 し か し 、 二 人 が 通 路 を 辿 ろ うと す る と き 、 そ こ に は 立 ち 塞 が る 影 が 。 そ れ は 、 炭 鉱 主 の 娘 ・ フ レ イ ア だ っ た 。
「こ の 通 路 の 行 き 先 を 、 わ た し は 知 っ て る」――― 。
そ う 語 る 彼 女 の 思 惑 と は 。
■上演時間
約60分
■キーワード
ファンタジー/ミステリー/戦争/会話劇
■ご利用について
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①「はじまりの夜」
微かに、天井から滴る水の音が響いている。
場所は廃坑の隠し通路。
下手には、心張棒で内側から施錠されたドアが一枚。
上手には、奥から手前に向かって、すっかり錆びついてしまった階段が伸びている。薄暗いその空間の隅には、かつて炭鉱夫たちが掘ったと思われる土砂をひとまとめにした砂袋が積み重ねられている。
開演。
上手の階段を下りてくる足音。
カツン、カツンとよく伸びるその響きは、炭鉱夫が振り下ろすつるはしが岩に当たる音のようである。
フレイア登場。
階段を下りると、フレイア、手元のランプを少し高めに掲げ、周囲を警戒しながら素早くドアの方へ向かう。
と、舞台中央の壁に一通の封筒が張り付けられている。
フレイア、ゆっくりとそちらに近づき、中の手紙を読む。
水滴の音、止まる。
フレイア:……私はもう、用済みか…!
フレイア、腰のホルダーから銃を取り出し、手紙を地面に放って、撃つ。
暗転。フレイア、退場。
銃声とほぼ同時に、下手のドアが体当たりされ、大きな音を立てる。
ドオン、ドオンと数回鳴った後、金具をてこにして、ドアにわずかな隙間を作ろうとする音。しばらくして、ドアの一部が蹴破られ、ヴォルとイーサン、登場。
ヴォル :イッテェ!今なんか頭に当たった!
イーサン:(狭い入り口を這い出ながら)おい、ヴォルいい加減にしろ。少し黙れ!……あれっ、
ヴォル :ん、イーサンどうした?…ん!(と、イーサンの手を引く)んん!イーサンちょっと太ったぁ?
イーサン:ううるさいいい、っだあ…!
ふたり、その空間に転がる。
ヴォル :おお…おお…やったぁ!出れたあッ!
イーサン:馬鹿ッ!
間。
イーサン:…いいから明かり付けろ明かり。
ヴォル :…はぁい。
ヴォル、炭鉱灯に火を灯す。
すると、辺りが明るくなり、そこにぽっかりと空間が広がる。
ヴォル :おお…ここが「鼠の隠し路」か………、暗いね。
イーサン:じき目が慣れる。広いな……。
イーサン、ゆっくりと立ち上がり、何度か手を叩いてみる。
続けて、何度か高めの音で声を出してみる。
イーサン:…大きく反響はしない。天井はそんなに高くないか。
ヴォル :火もちゃんと消えないね。
イーサン:ここなら長時間いても大丈夫そうだ。今何時?
ヴォル :えっと…、(素っ頓狂な声で)あぁッ!
イーサン:どうした?
ヴォル :壊れちゃってる。ごめん…イーサンのなのに…。
イーサン:…参ったな。いやでも、だいぶ進んだんだ。夜に出発してからだいぶ経ってるはずだから…日が昇ったくらいかな…。
ヴォルのお腹の音が盛大に鳴り響く。
ヴォル :……。
イーサン:くっ、くくく…(と、声を押し殺して笑う)
ヴォル :…日が昇ったら、そりゃお腹も空くよねぇ。
イーサン:腹時計は狂わなくて助かる。(少し辛そうに)少しここで休もう。これだけ歩けば、もう出口も近いはずだ。
照明、少し明るくなる。(ふたりの目が慣れ始めた)
イーサン、探り探り舞台奥に置いていた背嚢の方に向かおうとするが、頭の傷が痛む。
イーサン:…、
ヴォル :おれがやるよ。
イーサン:…ああ。
ヴォル、背嚢から小汚い缶詰と硬めのパンの包みを取り出す。
イーサン、座って少しの間目を閉じ、頭の痛みに耐える。
ヴォル :みんなは…、どうしてるかな。もう目的地に着いたころかな。
イーサン:……(と、半ば話を聞かずに目を閉じている)。
ヴォル :イーサン?
イーサン:んっ?ああ、この時間だと…、(やけに明るく)シャベルを持ってることだけは確かだな。
ヴォル :(妙に神妙な顔をして)……ハハ、違いない。はい。イーサンの分。
と、ヴォル、薄切りのパンと缶詰をイーサンに手渡す。
イーサン:おお、ありがとう。
ヴォル :んっ。(と、背嚢の中から二組の錆びたスプーンとフォークを取り出し、トランプのように並べて選ばせる)
イーサン:じゃあ、これ、……汚ねっ、(と、しばらくスプーンを袖で拭う。綺麗になったところで右手を胸元に添え)…美味し糧。
ヴォル :(パンをもぐもぐしながら)あっ、うまふぃかて。
二人、缶をガチャリとあける。
イーサン:(缶の中身を食べて)んんっ。これなかなかいけるな。
ヴォル :多分新しいやつだよ。…これ、こっそり貯蔵庫から盗ってきたんだ。
イーサン:(急に缶詰を食べるのをやめ、)…お前…。見つかったら一貫の終わりだぞ…。はぁ…またおやっさんにどやされる。
ヴォル :おやっさん?あ、これもらっていい?
イーサン:好きにしろ。
ヴォル :わぁい。(と、食べる)…「鼠」はさぁ、情報をあっちに持っていく時、いつもここを通るのかなぁ。
イーサン:……、
イーサン、食べ物を美味そうに頬張るヴォルを、恨めしそうに見つめる。
が、ヴォルと視線が合うと、背を向けて再び自分のパンをつまむ。
イーサン:(ふと地上での出来事を思い、ため息をつく)。
ヴォル :…イーサン。俺さ、この旅はながーーーーーくなる気がしてるんだ。簡単には終わらない。そんな気がする。(缶詰を2つとも持って)だから皆、なくなった缶詰のことなんてすぐ忘れるよ。
イーサン:はは、お前の前向きなとこ、うらやましいよ。…(頭を抑え)寂しくなるな。
ヴォル :ああ……うん。
イーサン、素早くパンを食べ終わり、腰を上げる。
イーサン:俺は一旦、周りの様子を見てくる。中の音がどれくらい外に聞こえるか、確認しないとな。
ヴォル :あいあいさー。
イーサン:俺が出てったら、声出してみて。
ヴォル :うんっ。
イーサン、自分のランプにも灯りを点け、下手のドアに掛かっていた心張棒を外しにかかる。
ヴォル、突如、激しく準備運動を始める。
イーサン:……。
ヴォル :…(イーサンの視線を感じてにっこり)。
イーサン、ドアを開けて外に出る。
ヴォル :(すると、深く息を吸い込み)…ッ!
イーサン:いや、うるッさい馬鹿ッ!!!!(はっとして口元を抑え)……。
イーサン、思いつめたようにドアの向こうに消えていく。
ヴォル :ごめんごめんごめん!
イーサン:(ドアの蹴破った破片を指差し)ここ、閉めてからやって。外に聞こえちゃうだろうが…(と言いつつも、自分で扉を閉めようとする)
ヴォル :いいから、いいから!おれがやるって…!
イーサン、再びドアの向こうに引っ込む。ヴォル、ドアの木片を元あった場所にはめ込み、ドアから少し距離を取って、
ヴォル :…イーサン、聞こえる?イーサーーン。(そして、缶同士をぶつけて音を鳴らしてみる)
応答はない。
ヴォル :ふう。(立ち上がって、)イーサンもういいよ、
と、上手の階段のふもとから、小さな鈴の音が聞こえる。
ヴォル、その音に反射的に反応し、そちらを振り向く。
ヴォル :……、
少しの間。
ヴォルが恐る恐るそちらへ近づくと、銃(サイレンサー付)を持った細い腕が上手から静かに出てくる。
音楽。
ヴォル :ん、んん!?
フレイア:静かに。背を向けて、そこに座って。
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