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(52) 今を生きる ー part4

「今を生きる」ーよく耳にする言葉である。
しかし、今ひとつよくわからない。大切なんだろうなと思う言葉ではある。(part4となった)

私たちの背負う荷は、どれも重い。比較するのも変なのだが、カウンセリングの中で重い荷物だなと実感するのは、過去の消せない、決して切り離せない荷であると感じる。クライアントの方々の訴えが集中するのは、そこであることから知らされる。ただ、カウンセリングの中で最も重荷であると訴えられるのは、今、現在の苦労であり、日々の苦しい訴えである。それが、過去の何かと必ずリンクして繋がりを持ち、継続して過去から尾を引いているのだ。それに呼応するかのように、まだ起きてもいないこれから先の事象にわざわざ投影され、この先の”不安”も抱かれるのだ。何が重いか計れないのだが、過去に始まり、今、そして未来に連鎖するその不安や恐怖はただただ重い。

私の生業上の痛みは、”ここの今”という位置づけが、ないばかりか、過去・未来の通過点に過ぎない扱いをされることである。それはとても悲しい。「不安」「恐怖」に視点を置いてしまうと、”ここの今”は単なる通過点に過ぎない位置づけになってしまうのだと思う。

いつだったか、京都新聞の紙面で、浄土真宗の大來尚順(おおぎしょうじゅん)師が、
「長い髪を引きずり、両手を前に出し、足がないのが一般的な幽霊のイメージだ。髪は”過去への執着”、手は先のことに囚われて”取り越し苦労”をしている姿、足がないのは宙に浮いていて”今がない”ことを表している」
と書かれた記事を拝読した。この解釈は実に深く、私たちに大切なものを示唆されている。目が覚める思いでメモさせて頂いた。これは正に禅の教えにある。”前後際断”である。
「過去・今・未来の際を切り離せ、そして、今を生きよ」
との教えそのものである。なるほどである。精一杯の私たちは、余裕を失くし、断ち切れない過去を背負い、今日の一日に疲れきり、その疲れた身体で明日を見る。決して光差す明日は見えない。その悪循環のスパイラルから抜け出せない。

応援している訳でないが、気がつくと野球のナイター中継を観てしまうことがある。どちらのチームを応援している訳ではないから全然熱が入らない。
熱が入っていないから冷静に観られているのだろう。ピッチャーを中心にカメラが動くから、じっとピッチャーを観ることになる。投球はテンポが大切らしい。一定のテンポで投げている。上手いと思う。都合悪く、二塁打を浴びる。「七回まで0点で抑えてきたのに・・・」と、投手は動揺した様子だ。一変して、今までのテンポは”間”がとられる。その間、人によって様々だが、じっと空を仰ぐ投手、ブツブツと独り言を言う、じっとグローブや球を見つめる、など色々だが、中にはグローブに刺繍でもしてあるのだろうか、その部分を見つめ何かをつぶやきながら指で撫でる投手がいる。おそらく、そのグローブには”前後際断”と書かれているのだと思う。

「今、浴びたヒットは振り返るな
過去となったものは捨てる
この先のことはわからない
不安がるな
今、ここに集中して
ここの一瞬を大切に全力で向かえ
自分を信じろ」

その投手がつぶやいた言葉はそうだろうと想像し、つい身を乗り出してしまう。見事、後続を抑え三振が続く。メンタルに与えた力は大きい。禅は野球をも救うのだ。私たちの人生も同様である。

大來尚順師の幽霊の教えは、迷い彷徨う私たちそのものなのかも知れない。
髪は”過去へ執着”している苦
手は”先のことに囚われた”
足がないのは”今に生きられない”

愚考の日々の中で、私にとって難しい教えではなく、まずは簡単に手がつけられることだけを手始めにやってみることにしている。確かに理屈では、これが最初にすべきことと思っても、難しいことは車の運転でもそうであるように、ローギアではすぐにスピードは出せないから、セカンド→サードギアと徐々にギアを上げていき、余力がついてから加速していけば、容易く速く遠くへ行けるのだ。動き出せばエネルギーは上がり、難易度の高いものも難しくなくなる、というわけだ。

強い思いで、まず今を、今だけを見つめることを心掛けている。エネルギーをここの今だけに向けるから、他に分散しない、という理論を採用する。力がないから、過去・未来に回すだけの余力が生まれないのだ。これでいい。これが最良だ。深刻になることなどない。”力”をどう分散するか、の問題でもある。”今だけ”に持って行けばいい。あとは不足して、他に持って行くべきエネルギーがない、と思えばいいのだ。

私はずっとそう生きて来た。
”今だけ”を考える。
そうすると、不思議に不足していたエネルギーは少しずつ総量が増えてくることがわかるようになる。そうなってから少しずつ、過去に未来に分配したらいいのだ。今に全力を注いで生きている者は、ポジティブという「思考」を身につけたことを知らされるはずだ。”今に生きる”・・・ピンポイントでエネルギーを注ぐことが、相乗効果を生むということだ。


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