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暗香浮動月黄昏

…月もおぼろな黄昏時になると

香りがどことも知れずほのかにただよう…

(林逋の詩より)

満月の夜のしんと冷えた時間には

帯のように漂う梅の香りがある。

そんな話を耳にしてから

この時を待ちわびていました

まん丸の月が西の山に傾くころ
梅が放っていたのは
色を使っても
白黒でもあらわせない、と思う
はじめて知る香りでした

山一帯をおおう梅林の所々には
地形や風向きや温度の具合で
香りの集う場所があるようで
それに気づいては立ち止まり
すこし戻っては確かめて
また進んでは香りのなかに突入して…
の繰り返しを何度もする


私を包んだ梅の香を確かめるために

胸いっぱいに息を吸って

はくのを忘れて

梅の香の帯にまざって漂う

梅の幹や枝や花の輪郭を
くっきりとあらわす月と太陽


自然の営みのなかでは一瞬の景色なのに
それを何かであらわすことの出来ないもどかしさ


梅の蚊帳のなかで
その景色に溺れたままの数日

この何をどうしたら良いかわからない
もどかしい気持ちを
大切にしたい。



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