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青春漫画抄(昭和)㉒
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*《 極秘負傷番外編 》
この時期より しばらく後の出来事であるが、
その当時の私は西武池袋線の沼袋に住んでいた。
桑田先生の忙しさが再来し
私もアシスタントに復活したのだが・・・
さて、お休みの間にやってしまった。詳細は割愛するが、
右手にガラスが刺り中指の腱を切ってしまったのである。
腱を繋ぐ手術をし、右手を釣った状態で先生に報告した。
連続する締め切りも控えて、先生は困った顔をしていたが
私の心は折れてなかった。
「一週間ください!左手で描けるようにしてきます!!」
さすがに先生も、まさか・・・?の顔をしていたが、
私は自分の言葉を実行した。
自分の部屋に帰り・・・
まったくの右利きから急遽の左利きに変身すべく
左手でペンを持つ狂気のアスリートと化したのである。
☆☆☆
そして一週間後、私は晴れやかな顔で職場に向かい、
新人の佇まいで・・・当然のように仕事を受けたのである。
右手を釣ったままの不自然なスタイルでもあり、
少しぎこちなくもあったが、やり遂げたと思う。
先生は・・・かなり呆れた顔をしていた。
そして右手が完治するまでの間、
私は左利きのまま仕事を続けたのである。
やがて負傷も完治し左利きとはお別れしたが、
右手の中指の可動範囲は、負傷前の半分となっていた。
なので、それまでの手首を基点とする動きから
肘を基点とする動きに変更を余儀なくされたが・・・
その新たな戦闘スタイルで
その後の戦場に向かったのであった。(笑)
☆☆☆
*《 新人アシスタント?》
さて、桑田次郎先生と私の仕事場である。
忙しくなる予定もあって
新たに新人のアシスタントを起用する事を決めたという。
私にとっては後輩である。
どんな人が来るのだろうか?と、思う間もなく参上した人物は
あの・・・川端の先生でもあった「井上英沖」であった!
こんな形で初めてお会いする事になるとは?!
仕事が途切れて、困った末での流れだという。
(この時期、彼のアシスタントだった川端は、
すでに夢を挫折して帰郷していた。)
先生の机の横に私の机。
その横に井上さん(先輩口調)の机。
さて、、どうなることやら・・・??
☆☆☆
*《 新たな職場風景 》
井上さんの仕事ぶりは・・・
かつて「絵が下手な漫画家」の私のイメージ通り
決して上手とは言えないレベルのものだった。
どういう運命の皮肉か、私が先輩として
同じ職場で井上さんを指導する立場になっていたのである。
だが、必死に取り組む・・・
本来なら大先輩の井上さんの姿は可愛くもあった。
新たに導入された会話の息吹は楽しくもあり、
先生と私だけだった世界も一新☆
井上さんの仕事にも慣れて上達してゆく姿は清々しかった。
やはり井上さんも、
私にとっては先輩でなければならない存在なのである。
☆☆☆
*《 井上さんの笑えない話 》
ある日の仕事を終えた居酒屋の飲みの席で
井上さんが笑いながら話してくれた。
「だいぶ前、自殺を試みて・・・
首に縄をかけて実行したんだけど、スポッ!と抜けてしまって
大失敗して・・・死ぬ気を失くしたことがあるんだ!」
「 ・・・・・・?!」
その笑顔に私はどう返せばいいのだ?
笑顔で返して飲むしかなかった。
(つづく)
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