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樹木礼賛 #2

樹木が好きである。
しょっちゅう、木をみている。

山の家で暮らす前は、スギとヒノキの区別すら出来なかったが、今は遠目から見ても区別できるくらいになった。

映画なんかを見ていても、つい木々に目が行ってしまう。アニメ映画などをみていても木に目が行くので、樹木が不自然に描かれていたりすると途端に興ざめしてしまうという弊害もあるが…

それにしても樹木は知れば知るほど面白く、奥深い。僕はもともと、樹木とは地上より上の部分を指すものだと思っていたが、もちろんそれだけではない。樹木にとって最も樹木らしい、すなわち本体とも呼べる部分は、地下にある根と、その周りに形成されるネットワーク、すなわち根圏である。

樹木は地上部を伐採されても、根と根圏が残っていればまた伸びることができる。逆のパターンもないこともないが、まずもって難しい。その意味で、やはり樹木の本体は根っこなんである。

根の仕事は土から水と養分となる化学物質を吸収することで、その意味において人間の腸と似ている。よくよく考えれば、植物の根と人間の腸は、形状も似ている。人間の腸の内部は、ヒダ→柔毛→微柔毛という形状で、限られた範囲で最大限の表面積を実現しようとしている。一方、樹木の根も、根株から細根が出て、さらに分岐して微細根とも言える根を出して、限られた場所で最大限の吸収を実現しようとしている。

そしてこの二つには、何よりも重要な共通点がある。それは、微生物が最も多く集まるところ、ということである。地球上には驚くべき数の微生物があまねく存在しているが、もっとも多く微生物が集まっている場所というのが、植物の根の周り、つまり根圏と、人間の腸内なのだという。

人間も植物も、その生命活動を支える根幹となっている腸と根に微生物が集まっているというのは本当に興味深い。どちらの生命にも、微生物が不可欠なのだ。というより、最初の生命は微生物だったのだから、ヒトや植物、ひいては生物は、微生物の繁殖のために存在しているといった方が正解のように思う。僕が学生のころ、R・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んで「生物は遺伝子の乗り物」みたいな表現にへぇーーと思ったものだが、それに倣えば、「生命は微生物の乗り物」なんである。数でいえば、微生物たちの方が、圧倒的に主役なのだ。

こうして僕は、樹木をみていたら、いつのまにやら微生物の迷宮に足を踏み入れることになってしまったのであった…


参考文献
築地書館『土と内臓ー微生物がつくる世界』デイビット・モントゴメリー、アン・ビクレー著

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