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Doors 第2章 〜 心の扉1

 心の中の奥の方にその扉はある.自分だけが知っている,自分だけが開けることのできる扉が.その扉の存在は記憶の前から知っていた.
 扉の向こうには一人の少女が座っている.ブロンズの長い髪は少し癖がついていて,白いドレスを身に纏った少女が小さな薄汚れた窓もない部屋で一人体育座りをしている.少女はいつもどこか寂しげで何も話さない.名前を聞いても俯いたまま.ほとんど動くこともない.ただ時折り顔を上げるだけで.その顔は感情を知らない笑顔だった.

 僕は何度もその少女をそこから連れ出そうとした.外の世界を,美しい世界を少女にも見せたかった.何となくその部屋には入れないと思ったので外から呼びかけたが,言葉が分からないのか顔を上げるだけだった.暫く呼びかけるも僕は諦めてまた扉を閉める.いつしか僕はその少女のことが気になっていた.
 その少女と手を繋いで街を歩きたい,そう思う日々が続いた.だが願いは叶わなかった.徐々に扉を開ける回数が減っていき,少女と僕は別の人になりつつあった.

 しかし僕は決してその少女のことを忘れた訳ではない.きっと少女が怖がっているのは僕がこんな体をしているからだろうと考えた.3年後,姉のようにペニスが取れたらきっと少女も心を開いてくれるはず.僕はその日を待ち続けた.向こう岸にある宝のように辿り着けないことも知らずに.姉と同じように過ごせば,同じものを着ていればその日が早く来るかも.そうして徐々に崩れていく性壁.こういう宿命だったのかどうかは分からない.ただ,いつまでもぶら下がり続けるこの寄生虫のことを僕は好きにはなれない.

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