3月のパイとラベリング
塾講師をしていた頃の元生徒から連絡が来た。
「僕もホワイトデーのお返しにチョコパイを作りました。美味しいって言われたから、お菓子作りが好きな塾の先生に教えてもらったって言っておいた!先生は今年もパイを焼いた?俺あのチーズのパイの方が好きなんだよね。作り方教えてー笑」
と。
塾講師をしていると、バレンタイン男女問わずチョコやお菓子をもらうことが多かった。
そして私は、そのお返しを毎年決まってパイを焼くことにしていた。
冷凍のパイシートを使えば簡単で美味しい。
大量に作ることもできる。
何よりホワイトデーの3.14は円周率であり、円周率記号πにかけて…という、完全なダジャレである。
その男子も、毎年チロルチョコをくれていた。
ただ義理でも何でもなく、ただのお返し目的である。これは本人も明言していた。
芸がなく、毎年パイであるが、彼は小学6年から塾を辞める中学3年まで、4年間毎年くれていた。
その度に、私はチョコパイとクリームチーズと蜂蜜のパイを作り、お返しとしてあげていた。彼のいうチーズのパイは、このクリームチーズのパイのことである。
塾を辞めて1年が経とうとしている。
6年前から3月にパイを焼いてきたが、今年は作らないんだろう…と思っていた。しかし、そう言われると何となく寂しくなって、折角だからとりあえず自分が食べる分だけ作ってみようかなと思う。
しかし、それにしても彼にとって3月のパイがそこまで強く根付いているとは。そしていつの間にか、お菓子作りが好きな人ということなっているとは、思ってもみなかった。
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己のどんな行動が、他人に影響しているのか。
それは意外で、思いもよらないことである場合も多い。何気なくとった言動が、他人にとっては強烈な印象として残ることもある。
普段はしないまぐれの行動でも、人としての輪郭を描かれてしまうことだってある。
だから、言動には気をつけましょう。
…ということが言いたいのではない。
些細な言葉や、ふとした行動で、他人をラベリングしてしまうことは避けたいと思うのである。
近くにいる人であればあるほど、あるいはまだ人となりが曖昧である浅い関係の時にこそ、その人の一言や仕草、目線、行動だけで「この人はこんな人」というレッテルを貼りがちであるが、それはとてももったいない。
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二転三転するようで申し訳ないが、こうは言っても所作や口癖というのは、その人をとてもよく表すものであることも事実だ。
特に言葉は、人となりを知る上で非常に重要な判断基準になり得ると思っている。
ただ、1つ疑問がある。
それは心が先か、言葉が先か。
心がその人の言葉を作るのか。
言葉がその人の心を育てるのか。
乱暴でいい加減な心を持つと、乱暴でいい加減な言葉を使うようになっていくのか。
反対に、繊細で丁寧な言葉を使っていくことで、繊細で丁寧な心を形成していくのか。
私は後者ではないかと思う。
人が言葉で思考をすることを考えると、言葉が心や人となりを形成することになるんだろうと思う。朱に染まれば赤くなるように、言葉が心を変えていくこともあるのではないかな、と。
今後も有料記事を書くつもりはありません。いただきましたサポートは、創作活動(絵本・書道など)の費用に使用させていただきます。