泣きたい時に読む小説「雨の日の約束」vol.1
今回お届けするのは、少し甘酸っぱいショートストーリー。
vol.1~vol.3でお届けします。
プロローグ
窓の外では大粒の雨が降っている。私は1人、会社の席でぼんやりと雨を眺めていた。
「なんだか淋しい気持ちなってきたなぁ…」
そうつぶやきながら、定時になるのを待つ私。
そんな日であった。私、佐藤美咲は32歳になった今も、心を寄せる幼馴染みの田中悠(ゆう)と結婚しているわけでもなく、交際しているわけでもない。
悠とは幼稚園からの親友同士。小学校でも中学でも高校でも大学でもずっと一緒だった。そんな悠のことが好きで、付き合いたいと思うようになったのは、社会人になってからのことだ。
でも悠はずっと私を幼馴染みの「美咲」としか見てくれていない。告白など無理だとあきらめていた。
そんなおり、悠から突然LINEが届いた。
「今日、会おう」
ドキッとした。そんな日に、なぜ今日会おうなんて言うのだ。
「ごめん、今日は」
慌てて断ろうとしたその時、続けてメッセージが届いた。
「絶対に会いたい。すごく大事な話がある」
大事な話?
ドキドキが止まらない。これはやはり、告白では?
いやいやいや、悠がそんなことするはずがない。
でも、この大粒の雨の日に会いたいと言うなら、多分告白以外の理由はないだろう。
勝手にそう確信した私は、こう返事を送った。
「わかった。いつでもいいなら会おう」
第1章 思いがけない告白
雨がどんどん強くなる中、私は約束のカフェに駆けつけた。今日こそ、悠からの告白があるはずだ。
ワクワクしながら店の中を見回すと、奥の席に1人、悠の姿があった。
「ごめん、待たせた?」
ドキドキしながら相対した悠は、いつもと変わらぬ穏やかな表情で
「遅くはないよ」
と言った。
コーヒーを注文し、正面から見つめる悠をじっと観察する。いつもと変わらないけれど、何かが違う気がする。
「なんで今日、会いたかったの?」
ストレートに聞いてみることにした。すると悠は少し照れくさそうに頬を紅潮させた。
「だってさ、美咲。ずっと一緒だったじゃないか」
「え?」
ずっと一緒?
幼馴染みの話を持ち出すとは思わなかった。
「俺たち、ずっと一緒だった。だからさ」
「だから、なに?」
悠の言葉についていけなくなってくる。そんな中、悠がゆっくりと口を開いた。
「結婚しようよ」
えっ?どういうこと?悠の言葉が全く理解できない。結婚?私たちが?
「冗談はやめてよ。本当の話を聞かせて」
落ち着かない。悠の態度がおかしい。
「本当の話だよ。ずっと一緒だったんだから、これからもずっと一緒にいよう」
「待って、悠。どういうことなの?なんでそんなことを」
ショックが大きくて、頭が真っ白になった。
ずっと思いを寄せていた悠が、幼馴染みの相手が結婚しようと言うなんて。
「ごめん、ちょっと消化不良」
飛び出すように店を出た。雨はいよいよ強くなり、私の頬を打つ。
泣きたい時に読む小説「雨の日の約束」vol.2
第2章 戸惑いと後悔 へ続く…。
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