関西演劇祭2021 猟奇的ピンク『フツウの放課後』劇伴の仕事を終えて
お話を頂いた時
7月の下旬頃から「劇伴を担当してみないか」と劇団、”猟奇的ピンク”の代表の鶴山さんからお話を頂いた。野田でアートBARをしていて、そこからの繋がっている”猟奇的ピンク”。前回の仕事は同年3/6の『大大阪舞台博覧会』だった。この回は劇伴×演技×演奏といったULTRA HARDモードな依頼で若干トラウマが抜けきらなかったが、それをクリアした自信もまぁあったので引き受ける事に。フリーで活動している一作家に、再度お願いされることは非常に嬉しい事だ。このチャンスは逃すわけにはいかない。今回は劇伴という事で前よりかは気持ちは楽だった。
↑前回の猟奇的ピンク『chapter』
毎晩深夜2時までピアノを弾き、鼻血を出しまくった思い出がある。これを超える依頼にはまだ出会っていない。だがしかし、この思い出が今回依頼を受ける自信を生んだ。
制作時
とりあえず最初の1ヶ月は「これはまた壮絶な戦いが始まるな」と思い、とにかくライブやイベントを制作しつつ遊んだ。だがしかし、頭の片隅の猟奇的ピンクは必ずいた。結局は「しっかり向き合わないといけないな」という事で8月下旬から制作スタート。
遊園地のシーン
まず最初に手を付けた楽曲は歌とダンスのシーンの楽曲である。演劇では遊園地のシーンで起承転結でみても非常に重要なシーンだ。ほかの楽曲を全部パスできたとしてもココはダンサーとのコミュニケーションもあるし、絶対納期を守らないといけないし、堅実かつ正解を提出しなければならない。
楽曲を制作する際に、イメージ楽曲、いわゆる「リファレンス」という物を頂く。(あくまでも雰囲気だけでパクってくれという物ではない)
今回頂いたのはnever young beachの「お別れの歌」という曲であった。
正直に言えば内心『やべえよやべえよ』となっていた。何故かというと僕はギターを演奏できなかったからだ。しばらく頭を抱え込んだが、習得するしかないと思い、打ち込みでのギター演奏を勉強し、何とか整った。しかし、僕の芸風…というか得意ジャンルはエレクトロなので、代わりの折衷案楽曲を探しにネットの海へ。シンセサイザーを盛り込んだ方が遊園地の煌びやかな感じも再現でき、よりODAGAWA節が大放出できると思ったからだ。
そこで一曲思いついたのがSugar's CampaignのCity Popだった。
脚本を見た感じ、ここぐらいはパーっと華のある楽曲を作りたかった。こっちならラグナセカでも良くやる得意ジャンルだし、制作スピードもソコソコ速い自信があった。ウキウキしてきてこれを機に作詞や歌にもチャレンジ。伸びる感じの女の子の声が欲しいと思い、イメージで真っ先に思い浮かんだ松竹のウジシ イヅモさんにお願いした。ばっちりイメージ通りだった。
サラっと楽曲を制作し、歌も入れて素早く提出。だいぶ気持ちが楽になった。
関西サイクルスポーツセンターのジェットコースタのレールの音もサンプリングしました。(サビ前)
『普通』のシーン
通常時ではなく、新任教師が『普通』とはどういう意味、そしてどういう事かというのを思いふけるシーンだ。
このシーンを読んだとき、小学生の頃にプレイしたPS1の『夜想曲』のBGMが頭の中に流れた。
この雰囲気を暗くして、PAD音などで不気味に作ったのが今作だ。思い出補正で記憶を頼りに作ったので今聞いてみるとだいぶ雰囲気が違う…しかし、目まぐるしく話が進んでいくノベルゲーなので、感情が味方してくれたのだと思う。ゲームBGMは音楽での感情描写を表現を教えてくれるバイブルでもあるのだ。
今回の考え、思い更けるシーンにはピッタリだ。小学生の頃の鮮度MAXな僕も「普通って…」ってこのゲームをプレイしながら思ってたと思う。知らんけど。
BARのシーン
ジャズのような複雑なコードワークにはかなり自信があった。この辺り鍵盤プレイヤーの強みだと思う。コード進行をサラッと決めてコーヒーを飲みながらPCと共にジャズセッションを楽しんだ。
演劇だし4拍子よりかは5拍子の跳ねる感じのジャズを作った。ドラムのリズムの刻み方は調べた。
台本を見た感じ、「とにかくバーで!!」という感じだったのでドラム+ピアノ+ウッドベース+サックスという小さなジャズバーにありそうな編成で挑んだ。すげー楽しかった。これライブで演奏したいなー。
朝支度のシーン
元キリンジのコトリンゴさんが好きで作った楽曲。マリンバとピアノとクラリネットで20代前半の女性の朝を再現。トーストでも食べてながら聴いたら最高だと思います。
振付師の白井真優さんから「道頓堀のカールおじさんのビジョンの曲」って言われてワロタ。良く聴いてたわ。てか動画あんの。
仰げば尊し
もう世代的に歌ってないんですよね…シンス1997。もう「旅立ちの日」になってたんですよね。
コードを確認しつつピアノを打ち込む。優しい歌なので繊細な女性ピアニストを再現しながら打ち込みました。(鍵盤の弾く力を細かく設定する)
後半は一緒のコードだとつまらないし、単調になるのでリハモナイズ(コード進行をアレンジする事)して遊びました。でもほんといい曲ですよね。クレヨンしんちゃんで風間君が転校するときにしんのすけが歌ってました。
因みに曲中の『先生』のコールはマガユラの方々と猟奇的ピンクとかかわりのある皆様でスマホで録音しました。ご協力ありがとうございました。
(この辺から気持ちがかなり軽くなる)
レンジの音
この辺りから効果音です。最近の電子レンジって「チン」って鳴らないですよね。正しくは「ピー」なんです。レンチンにもピー音が掛かる時代になってしまいました…。
レンジのチンって何の楽器なんだろうなー。何かをはじいて金属にあてたような音と、電子レンジが止まるとき小さくなる「カチ」という音が合体した音なんだろうな。そういうことを考えながら戦略を考えるのがSEの面白いところでもあります。実際効果音職人っているしね。作曲とはまた違うノウハウです。
チャイムの音
ホントこれも何の音だよ。豪華な鐘を使いすぎると私立お嬢様高校が完成してしまうし、鉄琴を使うと「ヤル気あるか?」みたいなサウンドになる。色んな音を吟味して探した結果、アナログシンセのベル音が最も僕の小学校のサウンドに近かった。地域や学校によって大差ありそうだなコレ…。とりあえずOKは貰えたので僕の小学校はスタンダードチャイムだという事は分かった。
雨の音
雨が全く降らねぇ。仕方がないので雨の日の車載動画からサンプリング。会場での臨場感を増させるために左右違う雨の音を鳴らして、立体感を生み出した。
以上5曲3音で今回は終了した。終わった瞬間に一気に肩の力が抜けました。難しい楽曲や効果音もありましたが、2か月でこれだけのサウンドをコンスタントに作れたとしたら、よく頑張ったのではないかと思います。(ソロの楽曲も同時並行で作っていた)
ゲネリハ
一回練習を観察しに伺ったことはあるが、しっかりセットを組んで通しで見るのは本番前日のゲネリハが初めてであった。目の前に映る平均台も何が起こるか全く分からなかった。
ゲネリハを全てを見た時に「あぁ、なるほどな」となった。僕が台本で読み取った、新任教師や女子高生のクリアな素性が、キレイに答え合わせされていった。そしてどのシーンも前回の『chapter』以上に綺麗にマッチした楽曲を提供できていた。
僕の出した『正解』が、舞台で演じる猟奇的ピンクの手によって『大正解』に変貌していくその様を見て、ゲネリハ終了時に目頭が熱くなった。ホントにやり切ったという安堵もあったが、僕の楽曲を受け入れてくれてくれた猟奇的ピンクに対しての嬉しさがあった。少しだけ「天職かもな」と思えた。
昔から依頼関連には逃げまくっていたし、避けまくっていた時に、チャンスを下さった猟奇的ピンクに救われた1年だった。過去にちょっとずつ依頼を受けることは増えてきたが、逃げずにビシッと完成させるという当たり前な事を教えてくださったのは猟奇的ピンクの『chapter』と『フツウの放課後』でした。
『普通』をしっかりとこなす事が一番大変なんじゃないでしょうか。
そんな僕ですが最近bandcampや手売りでソロアルバム『1998』をリリースしました。もしよろしければ何卒…!野田MagaYuraやライブ会場で売ってます。