小田川クソ小説 第7話 「ゴーカート」
日曜日、久々に家族水入らずで遊園地に息子を連れて行った。7歳になったユウは遊園地のゴーカートに夢中になり、何回もループして乗っていた。
一通り、アトラクションに乗り、最後に観覧車に乗って帰ろうとした時も「まま、車にまた乗りたいなぁ」と言って泣きの一回でゴーカートに乗っていた。
よっぽど楽しかったのだろう。帰ろうとしても「まだ乗る!」「あれ欲しい」と言って持ち場を離れようとしなかった。
「…あなたどうしましょ。言う事聞かないの」と妻が言った。
僕は少し考えたが、とある発想に行きついた。
「ユウにはこれに乗って家に帰ってもらおう」
我ながら素晴らしい発想だと思ったが、妻が吃驚した表情で断固反対した。
「あなた…!?何を言っているの??わが子にこんな小さな車に乗って家まで帰れっていうの?!そんなの無理に決まっているじゃない!!」
ユウも立派な7歳だ。今年から晴れて小学生になったのだ。人として逞しく育つスタートラインに立ったのは間違いないのだ。僕は愛を持っての提案であった。
「落ち着いて聞いてくれ。冷静に考えてみろよ。ユウは将来大人になって車に乗るだろ?今のうちに練習しておく事で、将来教習所に行った時に大きなアドバンテージになる。」
「こんな車でいい訳ないじゃないの!」
「確かに一見ふざけた車かもしれないが、普通の車に乗ると維持費、車検、保険料、燃料…色々掛かる。この車はすべてを取っ払った夢のような車なんだ。駐車代だってこのサイズなら家の路肩に止めていても問題ないだろう。財布に優しいぞ。」
「でもゆうには出来っこないよ…あなた、引っ張ってでも良いから普通に連れて帰りましょ??」
ギュッ!!
俺は妻と抱擁をかわし、優しいキスをした。
「大丈夫。ユウなら。大丈夫だから」
「………バカ」
遊園地からゴーカートを一台購入して公道に出し、望みどおりにユウを乗せてあげた。僕らはユウを信じてその後ろをアルファードで追従した。
息子は泣きじゃくっていたが、親とはいえど、ここは愛する息子の為に心を鬼にして、クラクションを鳴らしまくって檄を飛ばした。
カートの時速は20キロ。バカ遅すぎるせいで10分で着いた高速も、懸命にクラクションを鳴らしまくったが1時間以上かかってしまった。季節も冬で夜だったので、側から見ていても無茶苦茶寒そうだったが、それも『可愛い子には旅をさせよ』という事で、自分は暖房をガンガンに聞かせてドリカムを聴きながら見守った。
「あなた!!もういい加減にして!!高速道路なんて危なすぎるわよ!!こんな事すぐにやめて車に乗せてあげましょうよ!!」
「…」
これは俺とユウとの男の約束なんだ。絶対に引き返さない。
ユウは高速の入り口で路肩にカートを止めた。そして後ろを振り向いてきた。…そうか、高速代を渡していなかった。うっかり忘れてしまっていた。悪いなと思い、すぐに車を降りて、お金をユウに渡しにいった。
「お父さん……もうやだああああああああ!!!!」
ユウは泣きじゃくって俺に縋りついた。
「すまん悪かった…!はい、お金渡すから、ちゃんと一般のゲートを通るんだぞ!」
ユウは俺から離れなかった。しまいには何を言っているのかさっぱり分からない喚き声で俺の足をガンガン殴ってきた。
「いい加減にしろ!!お前の乗りたい車にも乗れてる!!高速代も全部俺が持った!!不自由ないだろ!!何が不満なんだ馬鹿!!」
俺は一発頭を上から肘で小突いて息子を黙らせた。
「………一般のゲートを通ってお金をしっかり渡す。いいな。」
ユウは一般のゲートを通って、泣き喚きながら合流へ向かった。
そこで俺は追従をやめた。
「あなた…なんで着いていかないの?」
妻が聞いてきた。
「こんなスピードで合流に行ったら、死ぬに決まっているだろ」
おかしな事を聞くもんだと思った。
俺は路肩に車を止め、コンビニに大好きなコーラを買いに行った。