小田川クソ小説 第2話 「本当の幸」
プロジェクトの仕事が無事収まり、しばらく落ち着くので有休を取って、慰安旅行の意を込めて、2泊3日の日本海の一人旅へ出ることにした。
1日中PCと睨めっこする仕事なので、食生活や睡眠時間がバラバラだったので、この旅で全てのストレスを昇華させたいと思う。
高速バスに乗り、約4時間かかった。ホテルにチェックインを済まし、お昼ご飯を食べに、友人から聞いた小さな海鮮丼屋へ向かった。
ここの海鮮丼は、のどぐろ押しで、一面に敷き詰められたのどぐろとサーモンや赤身、いくらなども入っており、非常に美しかった。それに店内はガラス張りとなっており、一面の雪景色を見ながら食べることが出来る。
都会暮らしの僕にとっては非常に贅沢な空間であった。
しかし年末だったので、外に3人家族が並んでいた。まぁ仕方ないだろう。他の店もそれなりに混んでいたが、まだマシな人数だ。
白い息を手で覆いながら、雪国の空気を満喫しつつ気長に待つことにした。
「こら!じっとしてなさい!」
「お母さんだるまさんが転んだしようよ!」
「今は順番並んでるんだからそんなことしてる場合じゃないでしょ!」
「あ、動いた~」
寒い中、母がチョロチョロする子供を捕まえていた。大変なもんだ。0度近くでも子供は無邪気だった。
「寒いな…絶対席空いてんちゃうか?店内で待ってようや」
「でもここに先頭っていうポールが立ってるじゃない」
「全然案内がないやないか。それに中に待ってるやつおるやんけ」
「あれは店内のお土産を買っているの!私たちココで待っておきましょうよ」
「いや、俺ちょっと聞いてくる」
寒さと空腹は人の余裕を蝕んでいく物だ。飯の事しか頭にない夫が、店内に突っ込んでいった。妻は実に大変そうだった。雪降る中、2人の相手をしなくてはならなかった。僕はそれを眺めながら、心の中で『がんばれ』と一声かけつつ無言で並んだ。
「お客さんすみません、外に先頭と書かれているポールがあるので、そこでお待ちになっていただいてもよろしいでしょうか?」
「ここにいる人たちは何ですか?僕達外で並ばないといけないんすかね?」
「こちらの方々は食べ終わった方がお土産を買っていらっしゃいます」
ほら言わんこっちゃない。不貞腐れて夫が店員と外に出てきた。
「んじゃ僕らどっち方向に並べばいいんですか。分かり辛いわ」
夫は少し口調を強めに言っていた。
「こちら道路になりますので、敷地側によろしくお願い致します。」
僕が並んでいたのは真逆だった。僕の後ろにおばあちゃんが並んでいた。僕らを店員さんが誘導してくださると思っていたが、そのまま店に入っていった。でもまぁ3組しか並んでいないのでそのまま待機した。どうせもうじき案内されるだろう。
しかし列は一向に進まなかった。
「これ二人抜かれてんちゃうか?追い越されてるんちゃうか?」
夫は子供を抑えてる妻に言った。
「そんな事ないわよ。みんな理解してくださっているわよ」
「そんなん分からへんやろ。整理されてないんやから。絶対二人いかれるわ。」
「大丈夫だから待ちましょうよ」
「絶対いかれるわ」
「じゃああなた言えばいいじゃないの!!」
妻が声を荒げた時、僕と夫は目が合った。
「すんません、僕らとどっちが先でした?」
ふてこく夫は俺に聞いてきた。
「いや…あなた方が先でしたよ。」
僕は戸惑いながら答えた。
「んじゃこっち並んだ方がいいっすよ。紛らわしいんで。」
こいつホンマにヤバいなと思ってしまった。後ろのおばあさんにも同じ事を言っていた。その一連を見て妻は眉をひそめていた。でもまぁせっかく旅に来たのだから、余計なストレスを立てても仕方がない。僕は一種のショーだと思い、この家族のやり取りを見る事にした。
暴れ回る子供、ちんたらすんなと小声で愚痴る夫、それを止める妻、家族の不協和音がピークに達した時、いよいよ店員さんが出てきた。
「カウンター席2席空きました!お客様方何名でしょうか?」
「3人です」
夫は言った
すると店員は僕とおばあさんのところに来て「何名でしょうか?」と聞いてきた
「1人です」「1人ですわ」
2人とも満面の笑みで言った
「ではカウンター席お先にどうぞ」
「はぁ!?!!?」
夫は叫んだ。僕は全力で勝ったと思った。全力でざまあみろと思った。
「俺ら先に並んでたやろ!!」
「すみません、テーブル席の方お待ちください」
「早くせえや!絶対中のテーブルの奴スマホ触ってるやろ!!」
「いえ、お客様は普通に食べてます」
僕とおばあさんは満面の笑みで店内へ入っていった。夫にメンチを切られまくったが、無視した。
「もうあなたいい加減にして!もう少しゆっくり待ちましょうよ!!」
「こんなもん理解できんやろ!!腹減ってんねんこっちは!!」
「あなたはいつも自分の事しか考えてないんだから…もう知らないわ!!」
ガラス窓から家族を外で見ると、喧嘩がどんどんエスカレートしていった。僕はそれを見ながら満面の笑みで、この店一番のおすすめの、のどぐろの海鮮丼を注文した。
しばらくすると妻は泣きじゃくり、夫は爆発し、子供はギャン泣きしていた。それを見ながら僕は海鮮丼を食べた。
「うまい!うますぎる!!」
海の幸や雪景色など、もうどうでも良かった。目の前の絵に描いたような、究極状態のヒトを見れて非常に良かった。店員もその状況を見て、半笑いしながら「外あれなんでゆっくりしていってください」と言いながら赤だしを全員にサービスしてくださった。そうでもしないと外に出れる状況では無かった。レビューで絶対☆5つけようと思った。
食事を終え、ごちそうさまと伝え、外に出ると、まだ順番待ちをしていたドカ切れした夫が僕に
「おい!!!待てやゴラァ!!!シバキ殺〇ぞボケェ!!!面貸せやクズ野郎!!!お前ホンマぶち殺〇ぞ!!!目玉くり抜くぞオイ!!!」と怒鳴ってきた。
僕は無視して人込みの中へ消えていった。