白雉

物書きになるつもりの学生です。

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最近の記事

動画サイトって情操教育的にどうなん

 今日の正午過ぎ、マクドナルドで昼食をとっていると、目の前に親子が座ってきた。40代と思しき父親と6~7歳くらいの息子で、父親が必死にモバイルオーダーに挑戦している傍らで息子は座るや否や「ハッピーハッピーハッピー」「チピチピチャパチャパ」とはしゃぎだした。やんちゃな子なのだろう。父親がスマホと格闘しながら「うるさいって」と叱るが、一向に止む気配がない。  自分ははじめこそ「こんな小さい子でもYouTubeで猫ミームを見るんだなぁ」とぼんやり思っていたが、はしゃぎ

    • 「リテラシイ」「低徊」 他

      ・リテラシイ (2024.2)  僕らは疑いすぎた。  ネットを疑い、  友を疑い、  親を疑い、  自分を疑う。  情報を疑い、  論理を疑い、  感情を疑い、  人生を疑い、  生死を疑い、  存在を疑い、  世界を疑い、  真理を疑い、  何も分からないということも  疑っている。 ・信徒の狂気 (2024.2)  懐疑主義が  不可知論が  僕に遺したものは、  奇妙な虚無感だった。  しかし僕には、  分かった顔している、  平気な顔して確信している人

      • 「思い出」「いやしい」 他

        ・思い出  (2023)  皺の寄った腕が水底の柔らかい砂を掻き分けて、手を切るやもと恐る恐る、「それ」を探し求める。小さな縦長の頭には、大きな黒い球体がひとつ、つるりと光ったまま嵌め込まれている。薄く濁った水の中で、人型の生命体は砂を掻き分け続ける。やがて腕が止まり、砂埃を上げながら片腕を上げると、手のひらには鮮やかな緑色の結晶が包まれている。真黒な眼を満足げにつやつやと光らせて、人型の生命体は大きく伸びをして浮上していった。  心の底に析出する、みどりいろの思い出たち

        • 乖離

           一年の浪人生活を経てなんとか大学入学前期試験を終え、合格発表を待っていた3月のある日、僕は松山に住む中学時代からの友人の家に遊びに行った。4日間彼の家に泊めてもらい、ビデオゲームと観光に勤しんだ。  羽振りよく高い飯を食い、朝方まで遊び、実に楽しかったが、同時にどうしようもない虚無感と欠乏感が残った。  性とゲームとSNS、それ以上のものは彼の言動から何一つ感じられなかった。それがただ哀しかった。  僕が持って行った「自分の中に毒を持て」に対して、「夜と霧」をくれたのは、嬉

          無題の音声.1

          若者は昔より自由なのかもしれない。 しかし依然として縛られているのだ。 縄ではなく、目に見えぬ鎖に。 手足縛られ荒野に放り出されていたのが、 五体満足で密室に閉じ込められたのだ。 幹線道路を急ぐ車の残響を聞きながら 朝っぱらから 虚しい時間の延長戦 人生への虚無感が、倦怠感が、絶望が 希望と釣り合わない。 ずっと赤字なんです。 今まで数少ない希望とイマジネーションの身銭を切って、なんとか生きてきましたが、 今に底をつく。 ついに母の連絡も厭になった。

          無題の音声.1

          掌編「ワンダー・ランド」(2022.6)

           今夜は雪が降るらしい。大雪だそうだ。共通テストは散々だった。槍でも何でも降ればいい。  雪が降り始めた。  桜みたいだと思った。本当はそう思いたくなかった。今年の桜は、灰色だろうか。ベッドに倒れ込んだ。窓に背を向けて、顔まで毛布で覆った。  夢を見た。  幼い頃、雪の降る日は、眠れなかった。小さな私は、いつまでも窓に貼り付いていた。窓を覗くと、雪が音を吸い込んで、無音の世界から、町の灯が飛び込む。街灯は大きな光の玉を帯びていた。鈍色に照り返す空の下で、田んぼが白く染まっ

          掌編「ワンダー・ランド」(2022.6)

          「溶解」 (2023.9)

           あいつよりは生きている?  あの子よりは死んでいる?  周りよりは  わかってるほう  頑張ってるほう  けど  今日はダメ  上には上がいて  下には下がいて  代えもいくらでもいるんだって  相対化の波の中で  希薄になってゆく  今日が満たされないのは  今までが満たされていたから  なんて  幸せまで相対化するの?  今日もまた  光る板を眺めて  投げ捨て  拾い上げ  むなしくて  「リテラシー」を楯に  気に入らない言葉に耳を貸さないだけ  真実

          「溶解」 (2023.9)

          掌編「嚥下」 (2022.9)

           蛍光灯は座席のモケット生地から瑠璃色の光を吸い上げつつ、窓ガラスを仄暗い鏡にして、雨夜のバスを外界と切り離された一つの箱にしている。  向かい側の窓辺には一人の老婦人が凝と座っていた。後部の座席にはまた音もなく中年の男性が座っていた。運転手の無感情な声が拡声器越しに響いた。彼らはエキストラに過ぎなかった。  我々は幾つかのバス停を身じろぎもせず見送った。無機質な車内にはビタミンオレンジの手すりが張り巡らされていて、どこか病棟を思わせた。そうして見たとき、煙を噴いて活動するこ

          掌編「嚥下」 (2022.9)

          腹六分目くらいが一番幸せ

           腹を満たす食事と心を満たす食事は必ずしも一致しないようだ。  なんとなく気が向いて、雰囲気の良い小さな喫茶店に入った。けして安くはない価格設定に、コーヒーだけ…と貧乏人根性を働かせるが、昼時の空きっ腹の誘惑に抗えず、ついにカレーライスを注文。多くはないものの、しっかりと牛肉の入ったスパイシーなカレーに舌づつみを打った。  ルーの辛味、ライスの甘み、柴漬けの酸味、アイスコーヒーの苦味を交互に感じ、腹が満たされていくよろこびが体に満ちる。満足とはこういうことだと感じた。費用対熱

          腹六分目くらいが一番幸せ

          「宣誓」「異性人」「泡沫」

          ・宣誓  (2023.6)  食卓に並んだ  キムチにコーラに寿司  僕にはどれも等しくうまい ・異性人  (2022)  それはエイリアンの抱擁だった。  僕たちは骨張った体を何度も撫でさすった。  ブロック塀のナメクジを見るように、  彼女の陰部に目を凝らした。  それはヤマアラシの恋慕だった。  惑星の接近だった。  僕らは抱き合いながら必死に  人間を探している。 ・泡沫  (2022)  炭酸の泡みたいな  どこからとなく成った生  この泡のことを  僕は

          「宣誓」「異性人」「泡沫」

          掌編「影魚」 (2022.4)

           一つ不思議な思い出があるんだ。  それは寝苦しい夜だった。三日月はとうに稜線の向こうへ消えていた。山の端は半ば夜空と溶け合いながら町を抱いていた。埃臭くなっていた実家の自室を抜け出して僕は散歩に出た。暗い街路には人一人居なかった。  街灯の下で時計を見た。午前二時四十五分…カーブミラーの丸い影が僕の隣に黒々とわだかまっていた。  再び歩き出そうとしたとき、「ねえ、お散歩?」と、澄んだ声が肩越しに僕を呼び止めた。気がつくと高校生らしき黒髪の少女が僕の隣に立っていた。見ず知ら

          掌編「影魚」 (2022.4)

          創作、というと恥ずかしい

           今までスマホに書き溜めてた短い文を、保存も兼ねてインターネット上に書き込むことにしました。  少し恥ずかしい。数多いるnoteユーザーのうち、チョット物好きな人が僕の記事を見て、眉をひそめて…あるいは眉一つ動かさず通り過ぎる…そんな光景を想像すると恥ずかしい。  それでも書き込むことを決めたのは、誰かに読んで欲しいから。いや、読まれねばならない。凡庸だけど名前は知ってるあの物書きの青年期…このnoteがそう呼ばれるまでは、僕は書かねばならない。  今は暗い文が多いけど、明る

          創作、というと恥ずかしい