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二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第九話 舞踏会(3-4)

 ゾクッと背筋に悪寒が走り、ステップを踏み間違えてバランスを崩す。ルキアスがミレーネの背中に添えていた手を腰に回して倒れるのを防ぎ、何事も無かったようにダンスを続けた。

「大丈夫か? 顔が真っ青だ」
「今、メルシアを見た気がしたのです。赤い瞳が見えた気がして、動揺しました。もし、メルシャがメルシアなら、ルキウス殿下を彼女の操る王女に夢中にさせて、甘い汁を吸おうとしたに違いありません。ルキウスさま、お気を付けて」
「分かった。すぐに探させよう。髪型やドレスの色は覚えているかい?」
「分かりません。あの辺の壁際だと思うのですが、本当に一瞬赤い目が見えただけで、他の人たちの間にいたから、他のことは分かりません。気のせいだといいのですが、私のエスコート役のサー・ロバート近衛副隊長も、居てはいけない人物を見かけたから確認してくると言って去ったまま、戻ってこないのです」

 ルキウスが深刻な顔で頷き、ミレーネをリードしてダンスの輪から抜け、警備中の近衛兵に合図を送った。
 舞踏会に潜り込んでいた礼装の近衛兵が、すぐにルキウスのもとに駆け付けてくる。ルキウスがミレーネから聞いたことを話し、メルシア、あるいはメルシャを捕まえるように命令した。

 物々しい捕物をして客たちを驚かせないように、あくまでも平静を装った近衛兵たちがメルシアを探し、すれ違った給仕たちにも伝えていく。赤い目の女性を見たら報告しろと。
 飲み物を持った給仕たちが、人々の間を泳ぎ回りながら探したが、メルシアは見つからず仕舞だった。

 目の錯覚だったのかもしれないと、ミレーネが思ったとき、ロバートがテラスに面したフレンチ窓から入ってくるのが見えた。まるで気が抜けてしまったように、ぼんやりした顔でフロアを眺めている。
 その疲れ切った様子に、ミレーネは、ロバートがあちこち不審者を探して、駆けずり回ったのを想像した。

 ロバートが気にかけた不審者は、やはりメルシアだろうか? 
 だとしたらメルシアは、警備兵とロバートを巻いて大広間に舞い戻ってきたことになる。一気に何人も欺くには、かなりの魔力を使うのに、誰にも気づかれることなくあの壁の近くに立っていた。

 やはりメルシアの魔力を吸い取る処罰は、失敗したのだ。
 途中で黒魔術師を率いたメルシアの本当の父親が現れ、作動中の魔法陣を壊して、メルシアを連れ去ってしまったのが原因だ。
 あの当時から魔力量が多かったメルシアが、黒魔術を見に着けたならば、どれだけ強大な黒魔術師になっていることか。考えるのも恐ろしかった。

 ミレーネはとりあえずロバートから話を聞こうと思い、ルキウスに断ろうとしたが、臣下の報告を聞いているルキウスには話しかけられなかった。
 そっとその場を離れ、ダンスをしている人々を迂回しながら窓際に向かう。ぼんやりと立っていたロバートの目の焦点が、ミレーネに合った。

「サー・ロバート、お疲れ様でした。あなたが探しに行ったのはメルシアかしら? 何か得たことはあって?」
「気になるものを見つけました。ミレーネ殿下ついてきていただけますか?」
「外に行くのですか? ではルキウス殿下にお伝えしてから……」
「早くしないと、去ってしまうかもしれません」
 
 ミレーネは後ろを振り返ってルキウスを確認したが、フロアの反対側でまだ話中だった。
「分かりました。行きましょう」
 ミレーネはロバートの後について、フレンチ窓からテラスへと足を踏み出した。


次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第九話 舞踏会(4-4)|風帆美千琉 (note.com)

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