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二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第九話 舞踏会(1-4)

 宮殿の大広間には、眩いほどのシャンデリアが輝き、王族、貴族諸侯、王女たちの華やかな衣装を照らしていた。
 ミレーネは桃のように柔らかい、シャーベットオレンジと薄いピンクの花に彩られたドレスを着て、最前列で妃候補の三人の王女と二人の侯爵家令嬢と一緒に、国王夫妻とルキウス王子を待っていた。
 ミレーネの斜め後ろには、エスコート役兼護衛の近衛副隊長のロバート・スミスが控えている。
 壮年のロバートは伯爵家の次男だが、家から継いだ爵位はなく、彼自身が近衛で上げた功績で、国王よりナイトの称号を授与されている。貴族社会の礼儀も心得ているためエスコート役には適役だった。
 ところが、人混みの中に見知った人物を見つけたのか、テラス窓の方に視線を彷徨わせて落ち着かない様子だ。

「サー・ロバート、どなたかお知り合いでもいらしたの?」
「ええ、それが……ここに居てはいけない人物を見たような気がするのです。少々席を外してもよろしいでしょうか」

 もうすぐ国王陛下が入場するというのに、礼儀を欠いても確かめなければならないほど、怪しい人物なのだろうか。
 ミレーネは不安を抱きながら、ロバートに許可を与えた。

 ロバートが去ってすぐに国王ファミリーの来場が告げられ、ミレーネが視線を前方に戻すと。明るいブラウンの髪と同じくブラウンの瞳のスタイン王とプラチナブロンドに青い瞳のロアーナ王妃に続き、ブラウンヘアーの王子と王女が入ってくる。ミレーネと同じくらいの年の王子は、腕に白い猫を抱いた十歳くらいの小さな王女に溜息交じりに言った。

「マリアン、連れてきたらダメだって言ったのに」

「フリップお兄様の言う通りにしようとしたの。でもララがかごに入るのを嫌がったから、この子と一緒にお留守番をさせられなかったの」

 ミレーネは、白いモフモフのペルシャ猫を見て、思わず名前を呼んでいた。
「ミック!」
 ミックがすかさず振り向いて、ナ~ッと鳴く。慌てて扇子で口元を覆ったが、マリアン王女が足をとめて、ミレーネを見つめた。

 小さな王女と猫に気を取られて気が付かなかったが、マリアン王女の後ろには、もう一人いた人物がいたようだ。
 上体を折って少女の耳元に近づけた顔は金髪で隠れていたが、ミックを見つけてくれたプリンセスだと告げる声には聞き覚えがあった。

 まさか、間違いであってと願うミレーネの前で、ロイヤルブルーの生地に金糸で刺繍された見事な上着を着た金髪の男性が、顔を上げてミレーネに向かって真っ青な目の片方を瞑ってみせた。
 会場がざわつき、人々の視線が痛いほどミレーネに刺さる。ミレーネはショックで息をするのも忘れ、瞬きもせずにその場に立ち尽くしていた。

―――騙された! なんてこと。私はトリスタナ王国の王子を侍従扱いしてしまったのだわ。ルキウス王子が言った私の王女は、妹のことだったのね。

 できることなら、この場から逃げ出したい。でも、そんなことをしたら、イゾラデ王国の礼儀が疑われてしまう。
 気持ちは踏みとどまろうとするものの、右足が一歩下がった。
 ルキウスが一歩前に出る。ミレーネは来ないでと首を振って、後ろに下がるのを繰り返す。人々がミレーネと王子の傍から退き、二人の周囲に空間ができた。

「イゾラデ王国のミレーネ姫。私は王太子のルキウスと申します。先日はお出迎えもできずに申し訳ありませんでした。重大な事件が起きてしまって、解決に走り回るうちに、時間が過ぎてしまったのです」

 葉っぱをつけながら、屈んで低木の間を覗き込む王子の姿を思い出し、ミレーネは危うく吹き出しそうになった口元を扇子で隠した。
「とんでもありません。国家を揺るがすような一大事なら、優先させるのが当然ですわ」

 ルキウスが俯く瞬間、下唇を噛んで笑いを堪えたのが見えた。
「寛大なミレーネ姫、後ほどファーストダンスを踊る栄誉を、私に与えていただけませんか?」

―――えっ? 私でいいの?
 戸惑いが顔に出ていたのだろう。ルキウスが小声で、従者の方がよかったのなら、着替えるよと言う。
 ミレーネが呆気に取られている間に、では後でと言い残し、ルキウスは他の王女たちに声をかけながら移動していった。


次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第九話 舞踏会(2-4)|風帆美千琉 (note.com)


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