アナログレコードをプレスしてリリースするまでの全工程
2006年からほぼ毎年1枚レコードをリリースし続けて、去年で通算で13枚のリリースとなりました。継続は力なりですね。
以前からレコード(アナログやVinylなどいろんな呼び方がありますが)をリリースしたいけど、どうしたらいいかと質問される事がたびたびあったので、費用や注意点なども織り交ぜて一連の工程を記事にしました。これからレコードでリリースしてみたいという人の参考になりますように。
レコードをリリースするまでには大きく分けて9つの工程があります。
順番に説明していきます。
1. 曲を作る
好きなように作りましょう。私はMPC3000→MPC4000を経て今はPro Toolsで仕上げてます。MachineもありますがPro Toolsに慣れすぎてオブジェと化しています。
ただし収録時間だけは気をつける必要があります。Wax Alchemyの保くんの解説から推奨収録時間の画像を拝借しました。7インチなら片面1曲で4分以内に収めたいですね。
ソースはこちらなので是非一読を!
2. ミックスダウン
トラックダウンとも言いますが、マルチトラックで作った曲をトラック毎にバランスを整える作業です。
素人がやる範疇ではないですね。YoutubeやSoundcloudにアップするくらいなら自分でやってもいいと思いますが、レコードにするならプロに依頼しましょう。仕上がりが全然違います。
ミックスダウンが雑だと次のマスタリングにも影響が出てくるので、自分でやるのは諦めて、またセミプロではなくプロに依頼することを強くお勧めします。
3. マスタリング
マスタリングはいわゆる最後の微調整です。微調整と言ってしまうと軽く思われるかもしれませんが、ミックスダウンと同じくらい重要です。下記の記事が非常にわかりやすく書かれてました。
下記のようなサービスもありますが、どうなんでしょう。
波形はあくまで参考で、最後は耳で確認する必要があると思う派です。ミックスダウンと同様、YoutubeやSoundcloudならいいのではと思いました。
レコードにするのであれば、マスタリングはミックスダウンと同様にプロのエンジニアに依頼しましょう。その際に、必ずレコードでリリースするためのマスタリング経験があるエンジニアに依頼しましょう。デジタルとアナログのマスタリングは仕上がりが異なります。
レコードとしてプレスされた際にどんな出音に仕上がるか、実際の経験がないとわかりません。私も初めてレコードをプレスしようと思った2005年当時、全然知らない人にmixiで質問をしたら、マスタリングだけはプロに頼むべしと言われた事を覚えています。超感謝です。
実際にその通りにして良かったと思ってます。ただしミックスダウンが雑過ぎるとマスタリングではカバーできないので、どちらもプロに依頼しましょう。
余談ですが、価格の交渉は絶対にオススメしません。プロが気持ち良く最高の力を発揮できるように、言い値で依頼しましょう。作業立会いならお土産持参も効果的です。良い作品に仕上げるべく頑張って稼ぐか、無駄使いと夜遊びを控えてお金を貯めましょう。
4. センターレーベルデザイン
せっかくなので好きなデザインにすればと言いたいところですが、極力シンプルにする事をオススメします。
DJが暗いブースでもA面・B面、また曲名までわかるとかけやすいからです。DJなんかシラネーヨという人はアーティスティックなセンターレーベルに仕上げちゃっても全然問題ないです。カラーヴァイナルも同様です。溝が見づらいのでDJ殺しです。
プレス業者がセンターレーベルのテンプレートを用意してるので、ダウンロードしてイラストレーターのファイルで入稿する流れです。
何をどうやったらこうなるのかわかりませんが、英語で上手くコミュニケーションがとれないと、こういうセンターレーベルのレコードが送られてきます。悲しい思い出です。
5. ジャケットデザイン
ジャケ無しで単価を下げるか、多少コストが高くなってもジャケをつけるかはとても悩ましい問題です。
個人的にはジャケ付きをオススメします。レコード屋に並んだ時に、ジャケがある方が知らない人に手にとってもらえる確率が高まります。
コストが多少高くなるんですが、コストの話はこの後したいと思います。余談ですが、知人がデザインしてくれた際でもしっかりギャラは払いましょう。レコ屋のチャートで1位になって一緒に喜んでくれるのもだいたい1〜2回なので。
6. プレス枚数を決めて発注
大きく分けて2種類の業者があります。一つはプレス枚数を決めて発注する一般的な方法、もう一つはクラウドファンディング形式です。
私が初めてレコードをプレスした時は国内にプレス代行業者に依頼しました。2回目からは海外のプレス工場に直接依頼するようになりました。途中から海外のレーベルからリリースしてもらう形をとってたので、一通り経験しています。
まずはプレス枚数を決めてオーダーする一般的な形式だと、国内にプレス工場を持つ東洋化成が一番有名かと思います。納期は約4週間のようですが、レコードストアデイの前は混み合うようです。
私が直近利用したのはいわゆるプレス代行のWOLFPACK JAPANです。納期はテストプレスなしの場合だと6〜8週間、テストプレスありだと8〜10週間のようです。プレスする海外の工場が昔直接依頼していたヨーロッパ最大のレコードプレス工場であるGZ社で、仕上がりが素晴らしい事を知っていたので利用しました。有料ですがテストプレスは絶対に有りにしましょう。
続いてクラウドファンディング形式です。最初に登場したのはQratesだと思います。ここでプレスしたという人は国内ではあまり聞きません。
最近ではBandCampもクラウドファンディングによるレコードプレスを始めてました。中身はQratesかなと勘ぐったり。以前に比べてBandcampでレコードを販売するアーティストやレーベルも増えているので親和性も高く、ある程度ファンを抱えているアーティストやレーベルであれば、限定〇〇枚!とかで煽ってリリースするよりは、クラウドファンディング形式にする事で本当に欲しい沢山のファンに行き届くと思います。
プレス枚数を決めて発注する方法とクラウドファンディング、どちらも一長一短ですが、個人的にはプレス枚数を決めて発注する方法をオススメします。
理由は単純で全て自費でやるというリスクを背負う事で、リリースする曲のクオリティを嫌でも高める必要が出てくるからです。自分が作りたい曲と売れる曲のバランスをどうやってとるか、真剣に考える事は重要だと思います。
売れる事なんて考えないで、自分が作りたいものだけ作ればいいと言う人もいますが、ある程度売れなければリリースし続けるモチベーションが保てなくなるでしょう。レコード店もオーダーしてくれません。
世間に寄せすぎるのもどうかと思いますが、個性だけを貫き通して出した作品が売れなかった現実を受け入れなければ、目指す先にもよりますが、次のレベルには到達出来ないでしょう。
※ レコードプレス料金比較
東洋化成とWOLFPACK JAPANのプレス料金を表にしてみました。
オプションは全て無し、テストプレスも無しにした税込料金です。
※2019年5月7日時点でのWEBのシミュレーション料金を比較しています
※東洋化成は下記の料金プラス送料となります
※WOLFPACK JAPANは送料無料キャンペーンを行なってます
500枚だとだいぶ単価が下がります。頑張って500枚売れるクオリティの曲に仕上げましょう。売る努力もしましょう。
7. 各種データ納品
プレスを依頼する先を決めたら、楽曲・デザインなどのデータを納品しましょう。ここでは特に難しい事はありません。支払いもお忘れなく。クレジットカードで支払えるとマイルが沢山溜まるのでオススメです。
8. レコード受領
発注時にテストプレスを依頼していると、業者にもよりますが2〜3週間でテストプレスが届きます。まず最初にテンションが最高潮に達するタイミングです。
テストプレスのレコードに針を落とす瞬間はどんなレア盤よりも気持ちが高まります。自分の曲がレコードから流れてくる事に感動します。本当に感動するんですが、この感動も1〜2回(個人差あり)なので、慣れって本当に恐ろしいですね。
テストプレスのレコードが届いたら、出来るだけ大きな音が出せるところで確認するようにしましょう。その際に、音のバランスが良いなと思うレコードと続けてかけてみると、出来が良いのか悪いのか判断がしやすいです。
私はHIPHOPが好きなので、いつも Showbiz & A.G. - Fat Pockets の12インチと比較してます。上ネタがクリアでありながら奥行きがあって軽くなく、ドラムとのバランスも非常に良いので個人的には理想的です。ミックスダウンやマスタリングの際も Fat Pockets の12インチを持参して、こんな感じでとお願いしています。
テストプレスを聴いて問題がなければ、業者にその旨伝えると本プレスが始まります。後は届くのを待つだけです。強いて言うなら部屋に数百枚のレコード入りダンボールが置けるスペースを確保しておく事です。
本プレスのレコードが届いたら、ジャケと盤のチェックです。ジャケットとセンターレーベルはデザイン通りになっているか、盤に反りはないか、針飛びしないか、音量は適切か等のチェックをします。
初日はテンションが上がってしまうので、翌日以降少し冷静になってから確認する事をオススメします。出来れば一人ではなく複数人でチェックするとより安全です。チェックが終わればあとは流通でフィニッシュです。
9. 店舗へ流通
手売りは好きなようにやれば良いとして、店舗への流通についてです。
相場感としては、委託は65%、買取は60%です。買取の方が在庫が掃けて確実にお金にはなるのですが、店舗で売れ残るとセールで投げ売りされて悲しい思いをするので、委託でも全然良いと思います。
最近の傾向としては店舗側もなるべく在庫を持ちたくないようで、少数のオーダーが小刻みにきます。店舗と共に積極的に宣伝を行いましょう。運命共同体です。
私は国内ではディスクユニオンとJET SET RECORDSへ卸しています。
海外のレーベルからリリースしていた時期もあり、UKの流通にも乗せれているので、UKはもちろん、アメリカやドイツにも流通しています。
UKを経由して日本に逆輸入されるケースもあります。タワーレコードとHMVにありました。
店舗への納品は、請求書と納品書を書いたり、梱包したり郵便局へ持ち込んだり地味に大変です。ウルトラCはないので、レコードを手にとって喜んでくれる人達を妄想して地道に頑張りましょう。
売れた実績が作れると自然と流通経路が増えていきます。手売りよりも店舗での販売をオススメする理由としては、今まで接点がなかった人に聴いてもらえる可能性が生まれる事です。
自分の事を知らない人が聴いてくれて初めていろんな可能性が広がると思っています。私のように大手のレーベルではなく自主制作でも、宇多田ヒカルやジャネットジャクソンと共にJ-WAVEで流れたり、海外でDJをする機会が生まれたりします。全てはレコードのおかげです。
これで一連の工程は終了です。レコードでのリリースがもっと増えるとイイですね!何かあれば気軽に相談してください。
おまけ
Youtubeの再生回数やTwitter、Instagramのフォロワー数、いいねの数が全てではありません。だってオッパイを強調した動画とか写真には絶対に勝てないですからね。そう考えると再生数とかイイねとかどうでもよくなります!
良い作品を作れば、わざわざ重くてかさばるレコードでリリースしても、お金を出して買ってくれる人がまだまだいます。
自分が一番愛着を持てるフォーマットで出した結果、同じフォーマットが好きな人達と接するキッカケとなり、決して数は多くなくとも新しい交流が生まれたり、海を超えて応援のメッセージが来る、さらには海を超えて会いに行く、そんな繋がりが増えて行くので、私はこれからも仕事をしながらレコードをリリースし続けるでしょう。
※2021年5月3日追記
プレスした後の記事も書いたので是非!
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