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【ワーキングメモリ】 文字が読めるからと言って、それを理解して実行できるかは別問題らしい。

こんにちは、カザバヤシです。
今回は僕の経営する会社で、実際に行った実験の結果とそれがどう日常に生きて来るかって話をしていきたいと思います。

特に大事になるワードは、「ワーキングメモリ」だと思っています。
脳科学とか心理学の世界ではよく聞く言葉なんですが、簡単に言うと「情報を一時的に覚えておいて、それを使いながら何かをする能力」のこと。
もっというと、脳の付箋みたいなもんですね

で、一旦僕の会社の採用時の話をするんですけど
面接前に軽い試験的なものを受けてもらうんです。
試験って言ってもそんな固いものじゃなくて、なんなら模範解答すら決まっていないアンケート的なラフ感です。

Googleフォームで必要情報入力して、12個の質問に答えてもらうだけなんで、おうちのお風呂とかでパッと回答できるくらいのもんです。

なんですが、実際結構いやらしい試験でして、内容がというよりも、構成がって話ですね。最初に試験の説明文が2行くらい書いてあるんですが、⑫は回答しないでねって言ってるんです。

「じゃあ回答しなきゃいいじゃん」ってなるんですが、そうはいかないんですよ。実際に48名の応募者の回答を集計したところ、約90%が⑫回答しちゃってるんですよ。
多分客観的にから見たら「ただの馬鹿じゃん」って思われるかもしれないんですけど、これがなかなかそう一口には決めつけられないんですね

結論だけ先に行言ってしまうと
「ワーキングメモリの容量」の問題です。

あとあと深堀するので、とりあえずは「そうなんだ」程度に抑えておいてください。

話しは変わるんですけど例えば、
「この部屋しばらくチェックイン無いから、最後に水抜きしてね」とか、「ゴミの回収が間に合わないから、今日だけはゴミをまとめて、廊下の隅っこに置いといて」とか、そんな感じのイレギュラーな指示が、現場ではバンバン飛ばさざるを得なかったりするんです。

ところがですね
実際に業務を進めて早くて1時間半、戸建てとか広いところの業務なら4時間とかお掃除するとですね
最初に指示したイレギュラーを忘れて帰っちゃうんですよ。

これがあとから修正効くならいいんですが、
時間の兼ね合いから、もう手遅れになり兼ねないこともあって、それらががっちゃんこしちゃうと大変なことになっちゃうんです。

これって単に注意力の問題なのかっていうと、少し解像度が低いなぁと思います。
何が起きているか整理してみた時
「タスクが全部で10あるとして、タスク1で指示したことをタスク10の終わりまで脳に留めておけるか」って能力が影響しているんですね。

要するに、
民泊清掃でミスなく、効率よく働くためには「指示を覚えて、それを頭の中でキープしながら、作業を進めて、必要なタイミングで引き出す」っていう能力、これがワーキングメモリです。

どんな仕事でもめちゃめちゃ重要な能力でして、同時にめちゃめちゃ軽視されがちな能力でもあるんです。
多くの場合「注意力が無い人」「物忘れが激しい人」って、こと片づけられちゃうわけなんですが、結構深刻な問題であってこれが一定をクリアしていないとやっぱ問題起きちゃったりするんですね。

履歴書とか面接だけじゃ、このワーキングメモリの能力ってなかなか見抜けないんです。
だって、「私、ワーキングメモリ高いです!」なんてアピールしてくる人だいぶやばいですし、見たことないんですよ。

じゃあ「どうやったら、応募者のワーキングメモリの容量を、採用の段階で測れるんだろう?」って考えた時に、採用フォームでちょっとした「イタズラ」を仕込むって方向にいったんですよね。

今回の話で最も重要になるので、もういちど言いますが
「タスクが全部で10あるとして、タスク1で指示したことをタスク10の終わりまで脳に留めておけるか」。

この能力を過小評価しちゃったり、あるいはそれを個人の性格故だと片付けてしまう責任者の方や経営者の方は注意が必要ですね。
言ってしまえば、9割もの応募者が最初に行った簡単な指示を覚えていられないということなので、かなりショックな内容ではあると思います。

そして、ここでライフが0になりかけているのを承知でもう一個追い込みを掛けます。
実際にはこの採用フォームでは、ワーキングメモリのほかに多くの仕掛けを採用しており、特に意識したのは「ナッジされるかどうか」です。

あまり聞きなれないと思いますが、説明するより先に以下の2パターンのどちらが回答しやすいかを考えてほしいんです。

パターン1:記述式

パターン2:選択式(チェックボックス)

とても明快な問題ですが、当然パターン2の方が容易に応えられるわけですよ。箱を1回タップするだけなんで。

少し話を戻すと、
採用フォームの「⑫(回答しないでと最初に指示した設問)」を回答させやすくしているってのが、この試験のエッチなところなんです。

つまり、「ナッジ」ってこれです。
言葉で行動を強いるより、仕組みから誘導する方が行動を変えやすいのが僕ら人間って生き物なんです。
「まだわからねぇよ!」って方は、こちらの記事でより詳しく話しているのでぜひご覧ください。

正味これらの罠を沢山仕掛けておくことで、
採用後に発生する課題のリスクを事前に低減してくれて、採用の質が上昇して、長期的なマネジメントコストも下げてくれるっていう、旨いもん尽くしになります。
採用後に発生する課題って何って言うと⇩

【採用後に発生する課題】
・文字が読めない人は、「マニュアルに書いてあること」でさえも何食わぬ顔で質問してくる。
・ワーキングメモリの容量が著しく低い人は、最初の指示が遂行されないから結局穴埋めで人を動かすことになる。
・「ナッジ」の誘惑に抗える能力が低い人は、言ってもいないことを無意識に実行してしまう。つまりナッジされやすい。

 

ここまでは、当社の実際のデータをベースに話してきたわけですが、これが正解だと言い切ることはできないですし、結局はサンプル数が少なすぎます…ので、今のお話が過去からもずっと裏付けられてきたことなんだよって紹介をさせていただきます。

まずですね、
イギリスの心理学者アラン・バッドリーさんが、
ワーキングメモリを「情報の貯蔵庫」と「情報を操作する作業台」の二つで構成されるシステムとしてモデル化してるんですよね。
まぁつまり、ただ覚える(貯蔵庫)だけじゃなくて、それをどう使うか(作業台)が大事だよってことをメタファーを用いて説明していたり、

もう一個引用するなら、
アメリカの心理学者ネルソン・コーワンが
「ワーキングメモリの容量は、個人差はあるものの、おおむね4±1チャンクである」って話をしているんですね(Cowan, 2001)。

チャンクっていうのは、極端にいえば情報の塊の単位のことです。

例えば、「あいうえお」っていう5文字の羅列を、
「あ」「い」「う」「え」「お」っていう5つの独立した文字として覚えると大変だよねと。
だから、「あいうえお」という1つの単語として覚える方が、ワーキングメモリの容量を節約できるよねーって話です。

このチャンクを如何に効率的に作るかが、ワーキングメモリの直接的な節約になっていて、節約できるってことは必要な時に引き出しやすくなるんですよ。
だって、容量空きまくりにPCのほうがサクサク動くじゃないですか。

あれと同じで、チャンクにして節約していけば引き出しやすさも期待できるってことですね。

ここで重要になるのは

「読めてる」と「理解して実行できる」は別問題
であるということですね

例えば、
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者パトリシア・チェンらの研究(Cheng et al., 2013)によると、大学生を対象にした実験で、複雑な指示文を読ませた後、その指示に従って作業をさせたところ、文章の読解力が高くても、指示通りに作業をこなせない学生が一定数存在することが明らかになったんです。

つまり、いくら「読める」人でも、ワーキングメモリが不足していると、読んだ内容を実際の行動に移すことが難しいってことで、この結果って、僕の会社の採用試験の結果とも一致するんです。

ここまで聞くと、「じゃあ、ワーキングメモリが低い人は、仕事ができないってこと?」って思うかもしれないんですが、

確かに、ワーキングメモリは仕事のパフォーマンスに大きく影響するけど、それが全てじゃなくて

ワーキングメモリはあくまでも能力の一つであって、他にも仕事に必要な能力はたくさんあるじゃないですか。問題解決能力とか。

そして、採用する側も、一つの能力だけで判断するのではなく、その人の全体像を見て総合的に見ていく必要があるよねってことになると思います。

ただやっぱ僕の会社というごく一部で見た時に数ある能力の中で欠落してはいけないのがワーキングメモリなんですね。
これは、「必須能力」ということではなく「無いと致命的である」という能力をピックアップして採用しているってことですね。

ただ今後は、ワーキングメモリだけでなく、他の認知能力や、性格、適性なども総合的に評価できるような、もっと多角的な採用手法を開発していきたいと思っていて。
現状では、「厄介な人を排除する」だけなので「欲しい人を採る」という高精度なところまでいきたいですね。

ということで今回は
「ワーキングメモリ」を前に押し出した人間の無意識の決行についてより深堀してみました。
こんな風に、社会の解像度を少しだけ上げて再考する機会がもっと欲しいという方は

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それでは、また次回の記事でお会いしましょう。


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