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未来思考スイッチ#06 「地上↔空中↔宇宙」の視点移動を身につける

視点の置き方で世界は変わる。

観察の視点、「虫の目」「鳥の目」「魚の目」というお話は、誰もが聞いたことがあるでしょう。とてもわかりやすく、憶えやすい視点のツールです。

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「虫の目」とは、対象を近くで観察する視点です。虫が持つ複眼で物事を見て、詳細に分析するイメージですね。どんな物事でも、いくつかの要素でできているものです。どのような要素で構成されているのか、因数分解を行うことで、その本質を見極めていきます。

「鳥の目」とは、悠々と大空を飛ぶ鳥の視点に立ち、全体を観察していくことです。周辺を広く見ることで、近くではわからなかった他との関係性や、見逃していたことに気づきやすくなります。「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、これは「虫の目」ばかりで観察していると、「鳥の目」で捉える全体を見失うぞ、という教訓です。

「魚の目」とは、さらに広い視点です。物事を取り巻く流れ、傾向まで読み取っていく観察のことです。皆さんも、魚眼レンズを覗いたことがあると思います。魚は超広角で周辺を捉え、水の流れまで読みながら進んでいくことから、このような意味で語られているのだと思います。

過去、私はいろんな展示デザインを手掛けてきました。家電のショウルームをはじめ、未来の暮らしを提案するモデルハウス、環境・エコの大切さを発信するスペース、国際万国博覧会の展示空間などです。そして、その構築時、コンセプターや演出家の方々と接して学んだのは、「花火」と「昆虫採集」の2極をバランスよく考えることでした。「花火」とは遠くから見ても一目でその美しさ、楽しさがわかることであり、そばに寄って見てみたいと思わせる魅力のことです。「昆虫採集」は、近くに寄ると多くの情報があり、虫眼鏡で詳しく観察したいという知的好奇心を駆り立てる魅力のことです。この両者がバランスを取ることで、展示デザインが大きな存在感を放つのでした。

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「地上↔空中↔宇宙」というものさし。

「虫の目」「鳥の目」「魚の目」「花火」「昆虫採集」・・・。基本的にはこれらと同じ考え方ですが、私は自分の観察視点として、「地上↔空中↔宇宙」というものさしをよく使います。視点を「見る高さ」で単純化したものです。単純化した分、使い勝手がとてもいいのです。

「地上」視点は、私たちの生活空間そのものであり、モノやコトを観察します。「空中」視点は、地上のモノやコトから離れ、俯瞰的に観察します。「宇宙」視点は、更に離れてみるとともに、まるで地球を360度全方位から眺めるような観察になります。加えて、観察の時間軸も視点が高くなれば長くなり、物事の捉え方の「抽象度」が高くなっていきます。

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抽象度を上げる発想法。

「抽象度を上げる」とはどういうことか。イメージを掴んでいただくために、洗濯機を例に考えてみましょう。

私達の中には、「洗濯機とは〇〇」という固定観念があります。洗濯に使う機械で、どの家庭にもあって、衣類を水で洗い、給水から脱水まで全自動でやってくれるもの。最近は、乾燥機付きや洗剤を自動投入できるものまで登場している・・・。こんな具合でしょうか。

洗濯機が日本で初めて登場したのは1922年、今から100年ほど前の出来事でした。米国ソール社製が輸入されたのが始まりで、その後、芝浦製作所(後の東芝)が国産第1号機を生産します。攪拌(かくはん)式で容量は2.5kg、ローラー式の絞り機を使って脱水を行っていました。全自動洗濯機が登場するのは1960年代のことです。

もし、「新しい洗濯機を考えてください」という命題が与えられたら、多くの人は固定観念の中にある「洗濯機=バケツ×モーター×水洗い」をイメージしながら考え始めるのではないでしょうか。

そこで、「抽象度を上げる」方法で未来の洗濯機を想像してみましょう。まずは、「洗濯機」という名詞を、「洗う」という動詞に変えてみます。すると、いろんな「洗う」という発想が出やすくなります。

例えば、「空気で洗う」。オゾンを含んだ空気を衣類に与え、水を使わずに除菌や消臭を行う洗浄方法があります。オゾン(O3)が酸素(O2)に戻ろうとする性質を利用し、菌やにおい物質を酸素原子と結びつけて酸化させるという方法です。帽子や靴、子どもの玩具など、水では洗いにくいものを洗浄してくれます。オゾン以外では、微粒子イオンを用いたもの、次亜塩素酸を用いたものなど、空気中の菌やウィルスを抑制する、不活性化する空間除菌商品も多数登場しています。

例えば、「光で洗う」。100~280nmの波長の光を、深紫外線(UV-C)と言います。この光には殺菌効果があり、医療や工場など、業務用途で使われます。人体には有害なので、人がいない時のトイレやキッチン、調理器具の殺菌や消毒に使われていると思ってください。

また、太陽や蛍光灯の光が当たると、表面で強力な酸化力が生まれるものを光触媒と呼びますが、その表面に接触してくる細菌などの有害物質を除去するという優れた機能を持っています。建物の壁に使われるタイルやガラス、テント膜などに応用され、抗菌と汚れ防止などに役に立っています。

このように、「洗濯機」から離れて、「洗う」という抽象度の高い視点で発想するだけで、空気や光などの異なる「洗う」が見つけやすくなります。

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発明家から教えてもらったこと。

今から20年ほど前、私はある発明家とお仕事をしていました。その方の発想力は本当にすごくて、毎日のように私を驚かせてくれました。私はデザイン担当でしたので、最先端技術に詳しいわけではありません。技術のことはその方から教えてもらっていました。

ある日、その発明家が私にこう言います。「カーボンナノチューブって知っているか?捨てられているゴムから炭素を取り出し、カーボンナノチューブをつくり、それで「不燃布」が作れるのだ。「不燃布」とは、文字通り「燃えない布」のこと。この意味が分かるか?」

いつもこんな調子で私は質問攻めにあっていたのですが、天才の発想にはついていけず、頭の中は「?」で一杯になっていました。そして、話はこう続きます。「あのな、「不燃布」で服を作るのだよ。燃えない服を。燃えない服は汚れたら、何百度の超高温の窯に通せば、汚れだけが燃えてしまうだろ。1秒もかからず、一瞬で洗濯が終わるのだよ。」

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家電デザインをやっていると、家電機器の範囲で物事を発想しがちですが、この事例は、洗う対象そのものを新しい発想で変えていく視点を持っています。「抽象度」を上げていくと、このような拡がりが生まれるのです。

さらに、「宇宙」視点の抽象度で考えてみる。

「抽象度」を上げることで、今まで見えなかった場所へと発想の領域を拡げることができました。更に「抽象度」を上げ、「宇宙」視点から自らに問いを投げかけてみましょう。

世界人口の増加で、2030年の水の需要は40%増加するそうです(2012年比較)。これまでも世界の半数近くの人々は水不足に悩まされており、水で洗濯をするということを常識と捉えてはいけないのかもしれません。

そして、もしも月で暮らすような時代がやって来たらどうなるでしょうか。宇宙では、ペットボトル1本の水の値段は100万円くらいになると聞いたことがあります。未来思考に立てば、「水で服を洗う未来」は考えにくいものになっていきそうですね。

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新たな「問い」でライフスタイルを見直そう。

文明の発達とともに、日本のような先進国では、服は「汚れたら洗う」から「着たら洗う」に変化しました。衣服に限らず、身の回りの消費財では、「一度使ったら捨てる」というものさえあります。衛生面などのメリットも大切ですが、持続可能な社会の視点から、行き過ぎた消費のライフスタイルを是正していくことも必要です。

「宇宙」視点とは、より包括的に問題を捉えていく視点と言っていいと思います。時間軸を未来に飛ばし、未来の子どもたち、世界の人たちに思いを馳せながら、本質的な課題を考え続けていきたいものです。

「地上」から「空中」、「宇宙」への視点移動。どんどん活用していきましょう。

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