未来思考スイッチ#02 「ひねり未来」という発想法について
過去・現在・未来の流れに逆らう。
多くの人は、過去から未来へ時間が流れていると感じています。過去や現在を基準に発想するので、未来は現在の延長線になってしまいます。言い換えれば、過去や現在に縛られた未来を描いてしまうのです。これを打破するためには、発想の流れを逆向きにすることが手っ取り早いでしょう。文字通り、未来は「未だ来たらず」ですから、私たち一人ひとりが自由に未来を決め、未来から現在を見るという視点に切り替えることが『未来思考スイッチ』の鉄則となります。
例えば、円錐(えんすい)。角度を変えて見てみると、真上からは「丸」に見え、真横からは「三角」に見えます。同じモノゴトでも視点を変えれば、見え方がガラリと変わります。見え方が変わると意味も変わってきます。
描く未来が、どうしても過去や現在に縛られてしまう時、想像する未来に「ひねり」を加えてみると新たな発想が生まれやすくなります。三角錐の例のように、見る角度を変えてみる、裏表を変えてみる、主従を逆転させてみる、大小を入れ替えてみるなど、様々な「ひねり」の手法があるので活用してみるといいと思います。ではこれから、私たちの身近な生活空間、「玄関」を題材に「ひねり未来」を考えてみましょう。
今の「玄関」のあり様を整理してみる。
皆さんの家の玄関、鍵はかかっていますか。戸締りは現代社会の常識ですから、当然、鍵をかけていますよね。今では自動で施錠するオートロック扉もあります。マンションでは1階の共同玄関でドアを開け、自宅でも鍵を開けるという2重の関所が当たり前です。
「知らない他人に入ってほしくない」、「自宅の安全を守りたい」ための玄関と鍵ですが、心配性の人だったら、鍵の数を増やしたり、チェーンを加えたり、フェンスや塀でガッチガチに囲ったりと手段に限りはありません。ある意味、安全を高めようとすればするほど、玄関は閉鎖的な空間となり、暗い金庫のような場所になってしまいます。
一方、周囲に目立ち、いつでも開錠され、誰もが気軽に入れる玄関だったらどうでしょう。昔の長屋生活のようなオープンな気分を味わえるかもしれませんが、いつ泥棒に入られるか、きっと不安になって仕方がないでしょう。
このように、安全だけど閉鎖的な玄関(クローズ)、開放的だけど犯罪が気になる玄関(オープン)の2つはトレードオフの関係、二律相反の状態になっています。何かを優先すれば何かが不足する、という状態が生じており、現在の常識的な玄関から未来を考えていけば、クローズな玄関が未来像になってしまいそうです。
そこで、未来の「玄関」をひねってみる・・・
皆さんは、オランダの大きな窓の住まいを見たことはありますか。窓が大きくて、カーテンがない(又はカーテンを開けている)ため、通りから部屋の中が丸見えです。一説によると、オランダはプロテスタントが多く、神に誓ってやましいことをせず、慎ましい暮らしをしている証としてオープンに見せているという歴史的背景と、あえて自慢のお部屋を街の人に見せたいという文化的背景があるようです。
オランダと日本では歴史や文化が異なりますが、オランダをヒントに、まずは「オープンだけど安全な玄関があるとしたら・・・」と無理やり発想をひねってみましょう。ギャラリーのように演出している玄関、自家菜園で採れた野菜をお裾分けする小さな市場のある玄関、ベンチで腰かけて会話できる前庭のある玄関など、道行く人の目が行き届くような玄関なら、人の目が抑止力になり、逆に安全性は高まるかもしれません。
このように二律相反の関係から引き離すと、下の図のような新しい領域を見つけることができますね。
現代は多くのモノゴトが、玄関に集まってきている。
家を訪れるのは家族や隣人、知人だけではありません。家主が居ない間に部屋を掃除するハウスキーピングサービス、身体が不自由な方、寝たきりの方をサポートする訪問介護サービスなど、様々な専門家が私たちのプライベートゾーンに入ってきています。
そして、何といてもECサービス。オンラインでの商品購入が増え、宅配サービスが増々充実してきました。Amazonは明日届く、地域のネットスーパーは数時間後に届く、Uber Eatsは数十分後に届く・・・。すごい時代になりました。このような視点から玄関のあり方を考えてみると、「あれ?玄関はオープンで誰もが出入りしやすい方がいんじゃないの?」と思えてきませんか。
未来のオープンな玄関。
玄関は住人の出入り口であると同時に、モノの出入り口でもあります。宅配サービスは配達員が玄関まで届けてくれて、住人がそれを受け取ります。配達員は家の中には入れませんので、直接お渡しするか、置き配するか、宅配ボックスに預けるかとなっています。
もし、配達員が家の中まで入ることができて、その荷物を特定の場所まで運んでくれたらどうなるでしょうか。例えば、冷蔵が必要な食品・飲料品を冷蔵庫に置いてくれるようになれば、冷蔵庫内の品物がなくなったら自動で補充してくれるようなサービスに進化し、冷蔵庫がまるで小さなコンビニのような存在に変化していくでしょう。
皆さんはアスクルという会社をご存知でしょうか。会社勤めの方であればきっとその社名を聞いたことがあるはずです。オフィス用品を中心とした通信販売サービスを手掛けられている会社で、バラエティに富む事務用品をスピーディにオフィスにお届けしています。小耳にはさんだのですが、サービスを開始された当初、品物の配達は一般の宅配業者に頼んでいたそうです。しかし、宅配業者がお届けするのはオフィスの玄関まで。必ず誰かに受け取ってもらわなければなりませんでした。この状況をアスクルは「お客様にお手間をお掛けしている」と考え、自ら事務用品の配達網を構築しようと考えたそうです。それにより、コピー用紙をお届けした際は、コピー機横の収納棚まで丁寧にお届けできるようになりました。注文者の利便性を最大化することで、今ではオフィス業務に欠かせない縁の下の力持ち的な存在になっています。素晴らしい「未来思考」の発想だと思います。
「玄関」はサービスの出入り口へ進化する。
顔認証や指紋認証といった個人を特定できる技術、カメラ映像やセンサーで人やモノの動きを検知できる技術など、IT技術が社会に普及してきました。これらの導入は一般のオフィスでは当たり前になってきており、最新のマンションも同様の傾向です。暗証番号で開くドア、スマートフォンで開錠するドアも普及し始めています。そうなると、心配だった玄関の安全面はこれらの技術で解決でき、必要な人々が自由に出入りできるようになり、「オープンで安全な玄関」の実現性はどんどん高まっていきます。
住人の家族だけではなく、遠く離れた身内や関係者、お付き合いのある隣人も、万が一の場合に家に入れるようになれば、緊急時の駆け付けもできるようになり、安心が広がるかもしれません。これまでにもあった不在時にお部屋をクリーニングするサービス、料理を作り置きしてくれるサービスなどは今後増々増えていくでしょう。
住人が求める多種多様なサービスをお届けするスマートな出入り口になる玄関、そんな未来がやってきそうです。
ありきたりの未来を「ひねる」と
それを実現するアイディアが浮かんでくる。
いかがでしたでしょうか。玄関の常識に「ひねり」を加え、「オープンで安全な玄関」をゴールに設定しただけで、その実現の可能性がいろいろと見えてきましたね。
今とは違う面白そうな未来をゴールに設定できれば、やり方は後からついてくる・・・。「ひねり未来」という『未来思考スイッチ』を使って、新しい快適や便利を発明してみてください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?