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レンズの話をしよう ⑦〜【剃刀の切れ味】トキナー AT-X Macro 90mm F2.5〜

 以前、タムロンSP90mm F2.5 Macroの記事を書いた時に「生前の父がタムロンの90mmとシグマのカミソリマクロを褒めそやしていた」と記述している。
 実際、ポートレートマクロとも呼ばれる万能兵器・タムキューとカミソリマクロの兄弟にあたる MACRO 50mm F2.8 EX DGの双方は手に入れており、テイストの違いから使い分ける事も多い。


タムロン SP90mm F2.5 MACRO


シグマ MACRO 50mm F2.8 EX DG

 イメージで言うと、
 開放で撮って花やポートレートなどを撮る用途に向いているのがタムロン。
 絞って撮ってフィギュアや昆虫をきっちり撮影するのに向くのがシグマ。
 大雑把にはこういうイメージである。

 私は植物、昆虫、模型&フィギュアに興味があるため、この手のマクロ系のレンズは結構愛用していたりする。Sプラナー欲しい。

 さて、時は1980年代。タムロンSP90mmが伝説を作り出していた同じ頃。
 この時代にも「カミソリマクロ」の二つ名を持っていた隠れ銘レンズがあったことはご存知だろうか。

 それが今回取り扱う「トキナー AT-X MACRO 90mm F2.5」なのである。




OMマウント再入門している時な


 前回の記事、Olympus OM-1の紹介記事で「元々持っていたOM-1は友人に譲ったが、たまたま綺麗なOM-1を衝動買いしてOMマウントに再入門した」と書いた。
 引っ越しの際にいくつか機材を手放し、残ったレンズを揃えて譲ったため、年の瀬にOM-1用の機材やアクセサリを急いで揃えた。
 状況してくる件の友人と、年末の大井競馬・東京大賞典をダブルOM-1で撮影する予定を立てたからだ。



 Zuiko300mm F4.5。競馬撮影時にはほぼ必須。綺麗な玉を割りと安く手に入れることが出来た。



 OMアングルファインダー。倍率切り替えが出来、見え方が抜群。
 マグニファイアやアングルファインダーは他社製のものもいくつか持っているが、逆像にはなるもののオリンパスのものはダントツで作りが良い。
 こうして機材を再び集めながら、二台目OM-1のテストフィルムを現像に出しに行った。

 私の家から車で20分程の距離(ちょっとした買い物も車は必要)に、以前中国の二眼レフ・GreatWallのテストネガの現像をやって頂いた個人の写真店がある。
 前々から車で通り過ぎる際にフジカラーの看板があるのには気付いていたので、ダメ元で頼んでみたところ対応していただいた、という経緯があったのだが、今回もその写真店にフィルムを渡し、
 「OM-1のテストショットとして色々な設定で撮ってみた」と伝えた。

 「OM!?OM今使ってるの!?」

 「他にも色々使ってるけど、たまたまOM-1再入門する機会があり、今機材をまた集め直してるところ」

「へえーっ、フィルムやってる人も少なくなったのに珍しいなあ。OMか……なんかあったかなあ。よし、待ってて」

と、店主のじいさんが持ってきてくれたものがこれ。


 OMマウント用のトキナー AT-X MACRO 90mm F2.8の――





 新品・未開封品。

 当時仕入れたものの、そのまま防湿庫で管理するままになっていたらしい。
 OM再入門に合わせて、実は私はOMマウント用のタムロンアダプトールを押さえてはいた。ズイコーの中望遠は軒並み高額のため、タムロンSP90mmで誤魔化そうと思っていたためだ。
 しかし等倍マクロアダプタや付属品全部付いてかなりお安い値段を提示頂いたので、もう買っちゃえと。


 他にもズイコーの28mm F2.8や

 「必需品」ことOMフォーカシングスクリーン1-13など色々を格安で譲って頂いた。
 トキナーの保証書なんて(記念に)目の前で切ってもらったもの。

 そのまま小一時間写真撮影の小技や、私がお世話になっている撮影会があることなどを話し、このレンズを譲っていただいてきた訳だ。

 時は12月24日。

 きっといい子にしていたのでサンタさんがなんとかしてくれたに違いない。

このレンズが作られた時な

 
 さてこのレンズ、果たしてどういうものかと言うと……

①アメリカの写真機材卸メーカーのVivitarが
②プロの使用に耐えうるラインとして作った「Series 1」の一本で
③1977年当時は解像度チャートの数字を振り切る脅威的な性能だとされた
④それをトキナーが80年代にライセンス生産
⑤アメリカでは「Bokeh」と「Tokina」を掛けて「Bokina」というあだ名で呼ばれ
⑥日本国内では「カミソリマクロ」の二つ名を持っていた

 というレンズだそう。

 このレンズについて調べると必ず「NASAが設計した」という凄まじい文言が見られるが、どうも正しくは
「このレンズを設計した設計者の前職の会社がNASAのプロジェクトの一部を委託されていた事がある」というのが正確な様子。
 なーんだ、それならそんなに……

 いや充分大した事だと思うんですけど。

  昆虫写真家の海野和男氏が映りに言及していることもあり……

 海野和男先生!?

 私は先述のとおり、植物や昆虫が大好きである。その大きな動機となったのが学研の図鑑に掲載されている海野和男撮影の写真であり、あの写真がなければ後にカブトムシやクワガタを販売する職業に付くこともなかったであろう。
 つまり幼少期の私からすると神様みたいな人なのである。
 海野氏はクラシックカメラの紹介をブログでしており、たまに手元の機材の情報を調べて海野先生のブログが引っ掛かると「よしっ!」と思うくらいである。


 あ、ほんとだ。載ってるわ。


映りを試してみた時な

 
 写真を撮影するための機材であるレンズにとって重要なのは、誰が作ったか、誰が評価したか、どういう来歴か……ではない。

 要は映るか映らないかだ。

 とはいえこれだけのレンズ、映りへの期待に胸が高まる。OMマウントから現在使用しているCanon EOS-M3への変換用のマウントアダプターが届き、早速テストしてみることとした。


 Canon APS-Cなので1.6倍、換算144mm前後の焦点距離になる寸法だ。


庭の柿の木


等倍マクロ撮影のエネループ電池
育成灯で栽培しているモウセンゴケの葉



 ヴィヴィター!!!!(魂の叫び)

 成程なあ。そりゃ「カミソリマクロ」と呼ばれるわ。

実験してみた時な


 この時期のマクロレンズにありがちなのだが、このレンズ単体では最大でハーフマクロ程度寄れ、マクロエクステンダーを取り付ける事で無限遠は出なくなるものの等倍マクロを実現できる。
 このエクステンダーは単なる金属の筒になっているものも多いし、実際それで役目を果たすからまあそれはそれで構わない。
 例えばタムキューやミノルタのMD50mmF3.5マクロなんかにも「筒」が用意されている。


 ところがこのトキナーのエクステンダーにはレンズが3枚入っている。無限遠を出せる補正レンズか、と思ったのだがどうもそういう理由ではないらしい。収差などの補正用ではないだろうか。



 そして一つ、写真店のじいさんも口にしていたことが気になってくる。

「当時メーカーが言うには、『このエクステンダーはレンズ入ってますけどF値が変わらずそのまま使えるんです』って言ってたんだよな。補正レンズ通してるんだよ?本当かねェ」

 確かに、普通に考えればテレコンを取り付けると換算2段分食われるのと同様、複数のレンズを通している以上実効F値も下がりそうな気はするが……

 そこで、実際に絞り優先としシャッター速度の変化を確認する実験をしてみることにした。


F2.5 ISO3200 1/50秒


F2.5 ISO3200 1/40秒



 うん、大して変わんねェな。

 最短撮影距離で撮影しているため被写体までの距離が近くなる分露出補正がかかる程度で、マスターレンズの明るさそのものは変化しないと見える。

 説明書上は推奨されていないが、勿論OMマウントに取り付けることができる造りになっているためマスターレンズを純正OMレンズに入れ替えることも可能だ。
 試しにG.Zuiko AUTO-S 50mm F1.4 でテストしてみよう。


F1.4 ISO3200 1/320


F1.4 ISO3200 1/400


 か、変わって……いない……

 黒マイ白ップの法則で、エクステンダーを付けた方が実効1段下がっているとしてもやはり凡そ半段程度しか変化がない。

 これは中々優秀なんじゃないかな。
 それにしてもめちゃ寄れるなあ。

 実はレンズを買った時、別売りのレンズフードをおまけで頂いていた。

「一緒に仕入れたんだけど、これだけあってもしょうがねェからな。使う人が持ってるべきだ。あげる」


 正直な話、転売でもすれば買った価格の数倍くらいで売れそうなものだが、私はバカなのでこのレンズ、ちょっと本気で使い込んでみたくなった。




 kaz


 




 

 



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