一流の歯科衛生士になるために必要なのは勉強ではなく気持ちなのだと気づいた話
恥ずかしながら、歯科衛生士の採用に何度も失敗してきました。
狙い通りの人材を確保できたはずが、実際に勤めてもらうとどうもうまくいかない。
自分たちの目指す、一流の歯科衛生士になってもらうはずが、全然そうはならない。
そんな経験を繰り返して、はたと気づいた話。
「あれ? これは考え方自体が間違っているのでは?」
と思った話です。
前提. 一流の歯科衛生士とは
本題に入る前に、前提の話です。
この記事で語る「一流の歯科衛生士」とは、下記の2点において優れた歯科衛生士である、と定義します。
患者さんを健康にする
患者さんの健康を維持する
何を当たり前のことを、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実は全然当たり前のことではありません。
おそらく一般的に「一流の歯科衛生士」とは「たくさんお金を稼ぐ歯科衛生士」と定義されることが最も多いのではないかと思います。
歯科医院にとって重要視されることが多いのは金銭的な話ですから、これは自然なことでしょう。
他のパターンだと、「高名な歯科衛生士(セミナー等によく顔を出すような)」と考える方もいらっしゃるでしょうし、「自分(歯科医師)によく従う歯科衛生士」や「たくさん勉強する歯科衛生士」、「患者さんに好かれる歯科衛生士」こそが一流だと思っていらっしゃる方もいると思います。
そして、「患者さんの健康」という観点で優れた歯科衛生士だからといって、お金を稼げるわけでも高名なわけでもないし、たくさん勉強するとも限りません。
逆にお金を稼いでいるから患者さんを健康にできているかというとそうではないし、高名だったりたくさん勉強したりしていても全然患者さんを健康にできていない歯科衛生士は少なくありません。
だから、何をもって「一流」と定義するのか明確にしておかないと、お話のピントがまるでズレてしまいます。
今回の話は「患者さんの健康」がポイントなのだと理解した上でお読み頂ければと思います。
経緯1. 採用プランを考えた
さて、本題に入りましょう。
ゆき歯科医院は開業当初から、予防型、ヘルスケア型で歯科医院を志してきました。
患者さんを健康にし、その健康を維持するために、やるべきことをやる。
そのことが具現化した形として最高峰の歯科医療を提供する、というのが僕らの持っている当院のイメージです。
このような歯科医院を実現するためには、歯科医師の技術や、歯科医師と歯科衛生士の連携プレイも大切ですが、最もネックになるのは歯科衛生士の能力です。
そして、僕らがイメージするだけの能力を持っている歯科衛生士というのは、世の中にほぼいません。
ましてや転職市場には皆無です。
つまり方法論としては、
「最初から能力のある歯科衛生士を雇う」
のではなく、
「見込みのある歯科衛生士を採用し院内で育てる」
ことになります。
では「見込みのある歯科衛生士」とはどんな歯科衛生士か。
高い能力を身につけること、そのためにたくさんの知識や技術を身につける必要があることを考えると、勉強が必要になることは明白です。
自ら開業できる歯科医師と違い、歯科衛生士は勉強しないことが圧倒的に当たり前。
そんな中でも勉強してくれる、意識の高い、勉強熱心な歯科衛生士を採用していく、というのが僕らの立てたプランでした。
経緯2. そして失敗した
採用自体はプラン通りに進みました。
勉強熱心な歯科衛生士を次々と雇うことができたんですね。
ところが、いざ働いてもらい、育ててみるとうまくいかない。
ただの一人も、一流の歯科衛生士には育たなかったんです。
勉強熱心なのにどうもうまくいかない。
勉強熱心な彼女たちは一流になるどころか、次々とトラブルを起こし、しかもほとんど成長すらしないまま。
やがて僕らは彼女たちのクビを切ることになり、あるいは彼女たち自ら医院を去ることとなりました。
一方で、当院には勉強熱心ではない歯科衛生士もいました。
いや、勉強熱心ではないといっても、あくまで「特に熱心な人たち」と比べたらという話です。実態としては一般的な歯科衛生士よりはるかに勉強していますし、彼女たちはその結果としてしっかりと知識や技術も身につけていきました。
でも別に「勉強したい!」という気持ちが前に出ているわけではなく、例えば自分一人で外部の勉強会に参加したりとか、自らセミナーを見つけて聴きに行ったりするほどではない、というイメージ。
ただ、業務時間内の教育はまじめに受けるし、院長が指示した最低限のセミナー(多くても年一回くらい)にもきちんと参加して勉強してくる、というレベルです。
ところが、その勉強熱心ではないはず、それほど能力が伸びないはずの彼女たちは皆そろって一流の歯科衛生士になりました。
それも今では、一流どころか、彼女たちは日本一クラスの歯科衛生士たちだと胸を張っていえるほどです。
こういった経験から僕らはこう考えるようになりました。
「なんか経験的に、、勉強熱心な歯科衛生士って、モノにならないんだよな‥‥」
そしてあるとき気づきます。
「あれ、もしかして、、勉強熱心なのにモノにならなかったんじゃなく、勉強熱心だからモノにならなかったのでは?」
「だって、こう考えて、、こっちはこうで、、、やっぱりそうだわ!!」
この気づきが、今回この記事を書くに至ったきっかけです。
理由1. 院外での勉強はマイナス
それでは、なぜ勉強熱心な歯科衛生士たちが一流にならないのか、その理由について書いていきたいと思います。
まず、ゆき歯科医院では歯科衛生士に必要な教育をきちんと行っています。
新人のとき、患者さんを一人で任せるまでの間はもちろん、独り立ちしてからも、より能力を高めるための教育を継続的に実施しています。
(具体的な内容は後述の「参考」で過去記事を紹介しています)
勉強熱心な歯科衛生士はこうした院内での教育だけでなく、自主的に院外のセミナーも受けたり、自分で本を買って読んだりすることが少なくありません。
勉強する量が増えるわけですから、一見するとこれは良いことのように思えます。
ところが、実は僕らも開業当初は分かっていなかったのですが、このことはかえって成長を阻害、ともすると逆に能力を劣化さえさせる要因になっていることが分かってきました。
いくつかのパターンがあるのですが、一つのパターンとして、そもそも医院の方向性と違うセミナーを受けてしまう場合があります。
例えば、接遇セミナーや、自費治療コンサルセミナー等ですね。
当院は当院として適切と考える言葉遣いと接し方をしてほしいので、そこから逸脱した接遇は足並みを乱すだけですし、当院の治療説明はすべて歯科医師が行う(法律上診断ができない歯科衛生士が提案すべきではないと考えている)ので、自費コンサルはむしろやってはいけないことを学んでしまうことになります。
次に、一番厄介なのが「一見すると方向性は合っているように見えるけど、実際は間違いだらけのセミナー」を受けてしまうパターンです。
実際に
・まるで臨床ができず学生以下の知識しかない歯科医師が義歯の専門家を装って間違いだらけの知識と不適切行為のオンパレードを教える
・患者さんを突き放す、コミュニケーション能力ゼロの歯科衛生士が間違いだらけのコミュニケーション事例を教える
こういったセミナーを歯科衛生士が受けてきてしまったことがありました。
そもそも院内に日本一クラスの歯科衛生士たちがいるのですから、外の歯科衛生士に話を聞いたところで、「自分たちよりはるかに劣るやり方を学ぶ」ことになってしまいます。
歯科医師についても同じで、「自分たちほどの歯科衛生士を育てられない=自分たちの院長よりはるかに育成の下手な歯科医師」の話を聞いたところで、たいていの場合は間違った情報が入ってしまうだけです。
もちろん、世の中に良いセミナーがないわけではないです。
総合的には自分たちに及ばなくとも、特定の領域に限れば自分たちより優れた歯科衛生士さんはいらっしゃいますし、それは歯科医師についても同様です。
そういったセミナーをうまく選んで学べば、プラスになることは少なくないでしょう。
しかし、そのセミナーの内容が本当に良いものなんかきちんと見極めて、適切に自分の中に取り入れる、というのは非常に難しいこと。
歯科医師にとってさえ相当に困難なことです。
ほとんどの場合は、間違ったことを学んでしまうでしょう。
したがって、こうなります。
しかも、学ぶ量が増えることで、記憶の定着が阻害され、院内の学びまで効率が落ちる可能性があります。
だって、100文字を暗記するのと、1,000文字を暗記するのだったら、100文字だけを暗記した方がしっかりと覚えられますよね。
院内のことをしっかり身につけるには、院内院外両方のことを同時に勉強するのではなく、院内のことだけに集中して勉強した方が、きちんと身につくはずです。
結果として、勉強熱心で院外まで積極的に勉強しにいくような歯科衛生士は
・正しいことだけでなく、間違ったことも取り入れてしまう
・院内のこと(正しいこと)がしっかり身につかない
といった問題を引き起こしてしまうというわけです。
理由2. 資質に問題
勉強熱心な歯科衛生士たちが一流にならない理由。
もう一つは、なんとなくの感覚というか、僕自身が肌感覚として感じている、あくまで傾向的なもので、全員が全員当てはまるものではないので、話半分に聞いて頂ければと思いますが‥‥
勉強熱心な歯科衛生士たちは、そもそも資質が欠けている傾向が強い気がしています。
(繰り返しますが、これは「患者さんを健康にし、その健康を維持する歯科衛生士」として考えた場合の話で、こうではないロールモデルを想定するのであれば、また話は別です)
具体的には、下記のような傾向が強いと感じました。
院長に指示されたことをしない
院長に指示されていないこと(やってほしくないこと)を勝手にやる
患者さんの健康に対して責任感がない
仕事に対する責任感がない
コミュニケーション能力が低い
まず1.と2.
院長からの指示を守らないことについては、院外で勉強することと整合性が取れますよね。
院外で勉強することで、院長が言っていることとは違うことを学ぶわけですから、こういった傾向は自然と強くなるでしょう。
また、
学ぶ ⇒ 指示に従わない
だけでなく、
指示に従わない ⇒ 学ぶ
という傾向もありそうです。
次に2.と3.
患者さんの健康や仕事に対する責任感がないというのもよく想像されることです。
勉強すること、自らを高めることをゴールとして意識している人とは、つまり利己的な人です。仕事の成果を出すというのは反対に利他的な行為。
利己的なことを目指しているのだから、利他的なことを意識するわけがない。だから当然に責任感が希薄になります。
勉強熱心な人間が仕事の成果をないがしろにしがちなのは、歯科衛生士以外の職種でもよく見られる傾向です。
最後に5.のコミュニケーション能力について
これについては、正直なところ、特に理屈がつけられていません。ただ純粋に経験としては常にそうだった、というだけなので、ただの偶然だった可能性もあります。
ただ、いずれにしても、これらの資質に欠ける歯科衛生士が一流になれないのは議論のないところでしょう。
対応. どんな衛生士を採用すべきか
さて、勉強熱心な歯科衛生士が一流にならないとすると、どのような歯科衛生士を採用すれば一流に育てることができるのか。
これについても、これまでの経験から答えが出ています。
それは「患者さん想いの歯科衛生士」です。
ゆき歯科医院で一流になった、日本一クラスとなった歯科衛生士は、全員がこのタイプでした。
よくよく考えてみればこれは当たり前のことです。
だって「患者さんの健康」がゆき歯科医院のゴールなのですから、同じく「患者さんの健康」をゴールにした価値観を持っている歯科衛生士がピッタリ合うのは当然ですよね。
「勉強したいから勉強する」歯科衛生士ではなく、「患者さんの健康を守るために(手段として)勉強する」歯科衛生士だけが、きちんと患者さんの健康を守れる歯科衛生士になれたという、当たり前の話でした。
まとめ
・勉強熱心な歯科衛生士は一流にならない
・患者さん想いな歯科衛生士は一流になりうる
今回は以上です。
補足. YESマンでなければならないか?
一点補足です。
院外でほとんど勉強せず院内でだけ学ぶ。
院長に指示されたことをして、院長に指示されていない余計なことはしない。
同じ価値観を持つ。
こう見ると「YESマンじゃなくちゃいけないってこと?」と思うかもしれません。
でもYESマンである必要はありません。
実際、当院で一流、日本一クラスとなった歯科衛生士には、YESマンもいれば、YESマンでない人もいます。
ただし、全然言うことを聞かない人はダメでした。
経験的にはこんな結果でした。
参考
ゆき歯科医院での教育について書いた記事です。
当院の教育は常に改善を続けているため、下記の内容は最新ではないことがあります。ご承知おきください。