【仕込み編#3】基本のゆで卵
一年中安定した価格と豊富な栄養素を持つ、もっとも身近な食材の一つ「卵」。世界中で用いられ、そのレシピ数は数えきれないほどあります。中でもゆで卵は、日常のいろいろな場面で食べることが多い卵料理ではないでしょうか。とても簡単な調理法であるにも関わらず、茹でる時間だったり、味付けだったり、少し工夫をすれば様々なバリエーションが楽しめる反面、茹でるときに殻が割れてしまったり、上手に殻がむけなかったりと、初心者泣かせだったりもしますよね。実際僕もゆで卵が下手で超苦手でした。きれいにむくのは奇跡でも起きない限り無理だと思ってました。そんな僕ですが、今は茹で時間もコントロールでき、美しくつるんとむくこともでき、味付けも自在にこなせるようになりました。
今回は僕が実際体験し乗り越えてきた初心者泣かせのポイントも上手に乗り越えられるコツをお伝えしつつ、味付け卵のレシピも添えていきたいと思います。
茹でる
卵を茹でると固まります。これは卵に含まれるタンパク質(アミノ酸)が加熱により変性し凝固して起こる現象です。一口にゆで卵といっても、黄身まで固まっている固ゆで卵から、黄身がとろっとろの半熟ゆで卵、逆に黄身が固まっていて白身がどろどろの温泉卵など、様々なゆで卵が存在します。こういった現象はなぜ起こるのか? それは卵の白身と黄身に含まれるタンパク質の違いによる凝固温度の差が産み出す現象です。
黄身の凝固温度は65度~70度
白身の凝固温度は75度~80度(ただし、白身に含まれるトランスフェリンというタンパク質は60度~65度)
上記の通り、卵のタンパク質は黄身と白身で違っていて、なおかつ白身の中には凝固温度が違うタンパク質が含まれています。ちょっと複雑ですよね。
65度~70度の低温で加熱を続ければ、黄身は完全凝固に至りますが、白身はトランスフェリンのみ完全凝固し、その他の部分は液状のまま、つまり「温泉卵」状態になるわけです。沸騰したお湯で加熱すれば、外側の白身からどんどん凝固していき、時間経過で黄身まで固まっていく、という感じです。
ちなみに温泉卵を作るときは、65度~75度くらいの状態で30分くらい加熱します。炊飯器の保温機能をうまく利用するとよいです。保温機能はだいたい60度~75度の範囲。高温保温にしておくと、70度~75度でキープしてくれます。また保温状態の炊きあがったお米の上にラップした状態の卵を置いておいても45分くらいで出来ます。
【茹でるポイント】
卵は水から茹でる。沸騰したお湯からだといきなり高熱にさらされて殻にひびが入り白身が流れ出すことがあります。
また、お湯に酢を少し加えておくと、殻をむきやすくなります。さらに、仮にヒビが入っても、白身が流れ出しにくくなります。これは、酢(=酢酸)が炭酸カルシウムを溶かす性質と、タンパク質を凝固させる性質を持つためです。入れても入れなくても良いですが、あるなら少し入れたほうが仕上がりがキレイになりやすいです。
茹で時間
水から茹で始めて、沸騰してからの時間で、仕上がりをコントロールできます。具体的には
5分 黄身とろっとろ白身やわらか
7分 黄身周りうっすら固まりだして、中はとろとろ。白身は以降完全凝固
9分 ほぼほぼ黄身は固まっているがみずみずしく色は鮮やか
11分 黄身がしっかり固まり色も白っぽく
13分超 黄身ガッチガチ
といった具合です。きちんと加減をコントロールするなら、沸騰したら必ずタイマーを使って時間を計ることが大変重要になります。一分一秒違うだけで狙った仕上がりにはなりません。携帯のタイマー機能などを駆使して正確に計りましょう。狙い通り完璧じゃなくてもいい、という場合でも、タイマーまではいかなくとも、なんとなく時計は見ておいた方が良いです。
一気に冷やす。しっかり冷やす。
これがかなり重要なポイントになります。
茹で上がったらお湯を捨てつつ、流水で一気に冷やし、冷たくなってきたらさらに氷をぶち込んでキンキンに冷えてやがるっ…!状態にします。そしてこの状態で少なくとも5分以上放置してください。(氷を使わず流水のみで行う場合は、時々水を入れ替えながら10分くらい)
こうすることで、熱膨張をしていた卵白が冷却されることによって縮み、殻との間に隙間ができ、大変むきやすくなります。
過去、せっかちな僕は、茹でて表面を流水で流したら、すぐむこうとしてました。そうすると、卵白と殻と薄皮がまだびっちり張り付いていて、殻をむいたときに白身もはがしてしまい、ぐっちゃぐちゃになります。一度やってみてください。ぺヤングの湯切りに失敗してシンクに中身を落としてしまったときレベルでがっかりしますから。
ここは焦らず、しっかりと冷やすのがポイントです。
細かいヒビを入れる
ピンぼけじゃありません。鍋をゆすっているので卵の動く速度にカメラが付いて行っていないのです(それはピンぼけでは)
しっかり冷えたら、鍋の水をほぼ捨てます。すこーしだけ、足首の半分くらいまで水が来てる、海岸でキャハハウフフしてる時に感じてる水くらいの量を残します。その状態で鍋をゆすって軽くぶつけながら殻に細かいヒビを入れていきます。
この時、激しすぎるとぱっかり割れますので気を付けてください。あくまで殻に細かいヒビを入れるのが目的であって、ストレス発散目的ではありません。
殻をむく
全体に細かいヒビが入ったら、いよいよむきます。
鍋にまた水をいっぱいに入れて、その中でむきます。乾燥させると薄皮がはがれにくくなるので、水分を与えたままむいていくときれいにむけます。僕は水道水にあてながらむいたりします。そうすると、水道水が殻と白身の間に滑り込んでくれて、つるんと気持ちよくむけたりするので。
キレイにむけたら完成です!お疲れ様でした!
そのまま食べてももちろん美味しいですが、ラーメン屋さんで見るような半熟味付け卵みたいなのを作りたい方のために、簡単な味付け卵、醤油味と塩味のレシピを紹介します。
醤油味
作り方は至って簡単。ゆで卵をめんつゆにつけるだけです。原液そのままでも良いですが、濃すぎると思う方は薄めて調整してください。また、タッパーなどでやると液体を使う量が多くてもったいないという時は、ジップロックなどで真空状態にすると液量が少なくて済みます。
ジップロックなどの密閉できる袋に卵とめんつゆ(写真のように個体の半分が浸かるくらいで十分)を入れて、水を張った鍋に沈めていくと、水に浸かった部分から空気が押し出されていきます。そのまま口のところまで空気を押し出しながら水に漬けていって口を閉じれば
こんな感じでぴっちり真空状態になります。こうすることで、極少量の液体で浸かるのでとても経済的です。
あとは冷蔵庫で一晩寝かせれば、しっかり味のついたラーメン屋さんみたいな半熟卵ができます。からしをつけて食べればお酒がすすみます。
塩味
先ほどの醤油味と同じく、液体に漬け込むのですが、こちらは塩水につけておけばOK。塩の濃度はお好みで。
今回は普通に塩味じゃ面白くないので、昆布も加えて「半熟卵の昆布締め」を作りました。
袋に昆布と卵、水と塩を入れて、真空状態にしていきます。
口のところまで空気を抜きながら水に沈めていきます。
今回は水分量をぎりぎりに抑えたので、わかりにくいかもですが…
こんな感じでぴっちりさせたら、冷蔵庫で2日くらいで昆布の香りや旨味がほんのり移ります。塩加減にもよりますが、昆布の旨味を引き出す程度の塩で十分です。そのまましっかり味付けして食べたい場合は塩気を強く、何かの付け合わせに使う場合は淡い味付けのほうが良いです。おつまみとしては上品な仕上がりになるので、ビールというより淡麗な日本酒などに合います。
他には塩麹漬けや西京味噌漬け、卵のピクルスあたりはおすすめです。
卵がキレイにむけるようになると楽しくなるゆで卵のバリエーション、ぜひいろいろ試してみてくださいね!