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統合失調症という、脳の病気のおはなし
久しぶりのnote、今回は統合失調症という病気についてお話ししたいと思います。
25年前にはじめて担当した患者さんのことを、今でも思い出さない日はありません。15歳のまだあどけなさが残る男の子でした。
入院した彼は私にしがみついて、ふるえながらこう問いました。
「先生、僕、治る?」
私はとっさに
「治るよ、ぜったい、治る」
と答えました。
そのことを指導医の先生から叱られました。
「治らない病気なのに、安易に治ると言ってはいけない」
たしかにそうなのかもしれないけど、あのときの彼にそんな正論を伝えることに意味があるのだろうか。
あの日から、「治る」とは何なのかを考え続けています。
統合失調症は100人に1人弱という、わりとよくある病気。脳の病気ですが、原因はまだ明らかになっていません。10代後半から20代が好発年齢とされる、若い人が罹る病気です。遺伝的な関与はありますが、「必ず遺伝する病気」ではありません。適切な治療をすればよくなります。
この病気の難しいところは、病気である自覚が自分自身でできないことです。正確には「病気かも」という感じはなんとなくわかるけど、幻聴にしても妄想にしても、自分では現実に起こっていることと脳が認識するので、自分ではなかなか区別ができないということです。でも治療が進むと、緩やかに区別できるようになっていきます。
脳の病気なのに、根本的な原因がわからないので、根本的な治療はできません。だけど、お薬で症状を軽くすると、現実の世界と脳の病気がつくる世界の区別ができるようになってくることはわかっています。ですから、根本治療できないからと悲観的になることはありません。
もちろんお薬だけでなく、周りの方のサポートを得られるように環境調整したり、治療をしっかりする間は経済的な不安が少なくて済むように福祉のサービスを使ったり、病気とうまくお付き合いしていけるような工夫を話し合ったりと、その方に応じた必要な支援を組み合わせて、何層にも重ねた盤石な治療体制を作ります。
だから、まちがいなく、よくなられるのです。
統合失調症についてまずお伝えしたいことは、かかったことがない残り99人の方々に、この病気をよく知って、病気でない人と同じようにお付き合いしていただきたいということです。
「統合失調症の〇〇さん」でなく、たんなる「〇〇さん」として。
たとえば、糖尿病を患っている方に「糖尿病の〇〇さん」って呼ばないですよね。がんのサバイバーの方に「がんの〇〇さん」ってわざわざ言わないですし。
職場や学校では普段からきちんと配慮されていると思いますので、それと同じような認識でお願いできれば。
社会に居場所を作ることができるのは、99人の皆さんです。
この病名を隠さないで、親しい人に語れるようになっていただくことが、私の悲願です。
世の中に恥ずかしい病気なんてないんです。この病気になったことを恥ずかしいと思わせてしまっている世の中を、変えていきたい。
隠したくなる病名が隠さなくてもいい病名になったとき、誰もが今よりもっと生きやすい、そんな世の中になっているにちがいありません。
あれから彼はどう過ごしているのだろうか。あのときの「治るよ」という祈りにも似た私の心の中の慟哭は、彼に届いていたのだろうか。
治っていても、治っていなくても、彼には誇り高く生きていてほしい。
「病気や障害は、人間の尊厳を損なうことはない」
と、多くの患者さんから学びました。
それをいろんな形で広く伝えていきたいと思います。
「治る」について、詳しくはまたこの次に。