第4回/或る男の引退~アリツ・アドゥリス

前回の記事で
19-20シーズンのラツィオについて振り返ったが
コロナ禍について触れた内容でもあった。

コロナが広がって残念だったことの一つに
応援していた選手のラストシーズンに観戦に行けなかったことがある。

感染者のピークは過ぎたものの、
さすがに以前のように自由に海外旅行に行きにくい状況であり
残念ながら筆者もこの2年ほど海外に行けていない。
その間に何人か好きな選手が引退してしまった。
一目現地で観たいと思っていた選手を拝めずに終わってしまったことが本当心残りだ。

最後に一目見たかった選手。
アリツ・アドゥリスもその選手の一人である。
今回は彼のキャリアを振り返りたいと思う。


https://www.gettyimages.co.jp/detail/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E5%86%99%E7%9C%9F/aritz-aduriz-of-athletic-club-bilbao-celebrates-as-he-scores-%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E5%86%99%E7%9C%9F/519635936


アドゥリスを初めて知ったのは2005年頃だと思う。
欧州サッカーにのめり込み
各チームの選手やクラブの歴史に触れる中で
「アスレティック・ビルバオ」というクラブの異色ぶり
~バスク純血主義・・・バスクにルーツのある人間のみチームに加入が許されるというチーム作り~が非常に気になった。
そのころアドゥリスは期待の若手として売り出し始めていた。

しかしながらその後の彼のキャリアは順調とはいかなかった。
アスレティックではフェルナンド・ジョレンテが台頭。
追われるようにしてマジョルカへ移籍。
マジョルカで結果を出し、ヴァレンシアに移籍するものの
当時好調であったロベルト・ソルダードの影に隠れがちであった。
(当時ダヴィド・シルヴァやファン・マタ等中盤に多くのタレントが居たことから、1トップを採用することが多く、実力がありながらソルダードの控えという扱いだったと記憶している)


31歳で再びアスレティックに戻った2012-13シーズンがキャリアの転換期となる。
自身をクラブから追いやったジョレンテが移籍問題で干され
その間にレギュラーを獲得する。
するとコンスタントに点を取るようになる。
2015-16シーズンはリーグ戦で20ゴール。
2017-18シーズンのUEFAヨーロッパリーグ(EL)で11得点あげ、大会得点王となった。このとき37歳。


プレー面でいうと、代名詞はヘディングの強さ。
181cmと決して大柄ではないが、滞空時間が長く、文字通り「空を飛んでいる」ような雰囲気を持っていた。
一方、アスレティックに再度戻ってきてからは
周りと活かし、活かされの関係を築き、良いポジショニング・駆け引きで勝負する「巧さ」が出てきた。
30歳を過ぎてからの急激なゴール量産は
経験から身につけた「巧さ」がもたらしたものだろう。
イケル・ムニアインやラウル・ガルシアといった芸達者達からボールを引き出し、マルケル・スサエタからの良質なクロスには頭で合わせる、
といったパターンが今でも印象に残っている。


晩年はさすがに稼働が厳しくなり
2019シーズン開幕前、2019-20シーズン限りでの現役引退を表明。
そのシーズン、バルセロナとの開幕戦、後半42分から途中出場すると
終了間際にアンデル・カパのクロスをバイシクルシュートで捉えた。
とても引退する選手のものとは思えないゴールであった。
アドゥリスと代わりベンチに下がった若き日のイニャキ・ウィリアムスが
驚きの表情とともに両手を上下しサポーターを煽っていた姿が印象的だった。
引退する大先輩の最後の仕事ぶりに思うところがあったのだろう。

空飛ぶ38歳(当時)。これが現役最後のゴールになるとは。
https://media.gettyimages.com/id/1168474058/ja/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88/aritz-aduriz-of-athletic-club-shoots-for-score-the-first-goal-of-athletic-club-during-the.jpg?s=612x612&w=0&k=20&c=k6KVMTbDZcV_MOvHAy7h3WU-g-GeLa02qHk-nviWT9Y=
バルサに黒星をつけたゴール。出場からわずか3分足らずで結果を出した。
https://media.gettyimages.com/id/1168475910/ja/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88/aritz-aduriz-of-athletic-club-celebrates-after-scoring-the-first-goal-of-athletic-club.jpg?s=612x612&w=0&k=20&c=YaRVmrXDPURkoORXTwwer8fVjsMPovRlRNLiogp423k=


このシーズン、アスレティックはカップ戦のコパ・デル・レイで快進撃を続け、決勝まで進んだ。
アドゥリスにとって決勝のレアル・ソシエダとの「バスク・ダービー」は最高の花道になると思われたが、新型コロナウイルスの影響で試合は延期に。
そして結局シーズン終了を待たずして2020年5月に引退を決める。
股関節(一部報道では腰痛とも)が悲鳴を上げ
医師から日常生活に支障が出るとの警告を受けたためであった。


スペイン代表として挑んだビッグトーナメントはEURO2016のみ。
世間的にはダヴィド・ヴィジャやフェルナンド・トーレス、ダニ・グイサ(この選手も好きだった)あたりの選手達の影に隠れがちだ。
だが、若き日の苦闘、自身を追い出した後輩からのレギュラー奪取、30を越えてからの躍進、スペイン代表最年長ゴールなど
彼のキャリアには素敵な物語があった。


筆者は幸運にもアスレティックの本拠地「サン・マメス」で観戦する機会があった。
現在頼もしいカピタンになったイケル・ムニアインがデビューした年であったと思う。
途中出場で出てきた彼を、隣にいたスペイン人の友人が「あれがムニアインだ。彼がクラブの未来になるんだ」と嬉しそうに語っていたのを今でも覚えている。
ただしこのシーズン レギュラーはジョレンテで、アドゥリスは居なかったため、結局生で彼のプレーを観ることはなかった。

ガビロンドのゴールを祝福。観戦したのは旧サン・マメス。当時のメンバーで今もチームにいるのはムニアインと出戻りのアンデルくらいか。

引退セレモニーは観客のいないスタジアムで
チーム関係者のみが集まって行われた。
彼の歩んできたキャリアを考えると、サポーターの前でこのようなセレモニーをさせてあげたかった。

アドゥリス以降、アスレティックでシーズン2桁得点を挙げるFWが出てきていない。
このチームではフリオ・サリナス、イスマエル・ウルサイス、アドゥリス、ジョレンテなど伝統的に優れたCFタイプのFWが生まれている。
新たな才能が生まれてくることを筆者だけでなく、アドゥリスも望んでいることだろう。



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