どんなに非接触化が進んでも、必ず濃厚接触するペアダンス、タンゴの今後を考える
昨今の出来事によって、人々の考え方や行動パターンが、根本的に変わっていくだろう。
嘆いていても仕方ない。これをチャンスだと考えて、新しい考えや価値を創造していくことが求められてくる。
一つの流れとして、「非接触」の技術が求められることは確実だ。
エレベーターのボタンや、マスクを付けたままの顔認証など、「タッチレス」は色んなところで、今後、目にする機会が増えていくだろう。
しかし、その反面、どうしても「接触」を回避できないものもある。
「ペアダンス」である。
この文化は、私が学生時代からお世話になっているので、かれこれ十数年の付き合いだ。今までに、色んなペアダンスを経験してきた、、、
社交ダンス、サルサ、バチャータ、メレンゲ、タンゴ、ズーク、キゾンバ、フォホ、サンバ、、、
どのペアダンスにも共通することは「接触」することだ。
それはそうだ。なぜなら、ペアダンスとは、体のつながり、つまり「接触」を通した、コミュニケーションなのだ。
言葉を介さない、コミュニケーション。。。人間の五感全てを使って、全身全霊で相手と向き合う、、、こんな刺激的なものはない、と、ペアダンスの魅力を語り始めると、本来のテーマから脱線してしまうので、ペアダンスの魅力については別の機会に紹介したい。
さて、、、
残念ながら、ペアダンスを取り巻く環境が、ちょっと前までと全く同じ状況に戻ることはもうないだろう。
しかし、悲観していても仕方ない。このピンチをチャンスに変えなければ、ペアダンスの未来は決して明るくない。
「では、どうしたらよいのか?」
未来なんて、誰にもわかるはずはないが、今起こっていること・今後起こりうることを考えれば、ある程度予測はできるはず。ということで、自分なりにペアダンスの今後について考えてみた。
*今回は具体的に説明するために、「日本でのアルゼンチンタンゴ」に特化して話していきたいが、基本的にどのペアダンスにも当てはまることなので、自分の踊るペアダンスを想定しながら、考えていただきたい。
*こちらを音声に楽しみたい場合は、こちらをご覧ください。
1、現在起きている新しい動き
最初に、現在起きている新しい動きを2つ紹介する。
■「ライブ配信によるサービス提供」
以前から提供している人もいるので、決して新しいと言えないかもしれないが、今回の出来事で、サービス提供側と受け取り側が、その対応をせざるを得なくなったため、その流れが急速に広まった。また、以前よりもサービスが多様化した、と言えるだろう。
今回、Zoom、YouTube、facebook,、Instagram、Skypeなどを利用して、オンラインのサービスを初めて利用した人も多いはずだ。
例えば、
・facebookのライブ配信でミロンガ(*)を行う
・Zoomでオンラインレッスンを行う
・YouTubeで生演奏のライブ配信を行う
のような動きで、この動きはここ数週間で、数十倍に増えている感覚だ。
(*)ミロンガ:タンゴのソーシャルパーティー
この動きは世界中で広がっており、むしろ日本は少ないぐらいだ。
これは、タンゴ関係で働く人が、生活していくために始めたケースが多い。なぜならば、タンゴ一本で働いてきた人にとっては死活問題だからある。
昨今の出来事が収束するまでは有効だが、中長期で考えると、さほど定着しないだろうというのが、私の考えだ。
■「YouTubeチャンネルでの動画アップ」
YouTube上に、踊り方のコツや演奏のコツなどをアップしている人が増えている。自分のYouTubeチャンネルを開設した人もたくさんいる。
しかし、YouTubeチャンネルの広告だけで収益化するのは、時間がかかるし、労力も相当必要だ。そもそも、タンゴ関係だけで登録者数や閲覧数を増やすのには限界がある。むしろ、YouTubeの動画を利用して、二次展開、三次展開に繋げていく方が可能性がある。
この2つの動きは、以下のように収束していく。
■超有名なダンサーの有料オンラインサービスだけが残り、他は淘汰される
■一握りの収益化できたYouTubeチャンネルが、引き続き動画をアップする
例えば、日本の地方にいる先生が、オンラインレッスンを始めても、その競合相手は、もちろん日本だけではなく、世界中の先生になる。現在は日本語という点で、少しは守られているが、これは時間の問題だし、極論、語学なしでも、ある程度理解できてしまう。
また、オンラインレッスンを有料化しても、YouTubeで同じようなものを無料で見られるなら、差別化が図りにくい。完全なオーダーメイドのコレオグラフィーをパッケージ販売(コレオを売って、さらに教える)するような、ユニークな方法は十分にありえるが、「この人のコレオが好きだから」という理由がついてきて、対象者がかなり限定される。
以上の背景があり、今起きている新しい動きは、あくまで一時的で、長くは続かないが、問題なのは、「いつまでこの状態が続くか、誰も分からないこと」である。事態がある程度収束しつつある中国でさえ、タンゴが本格的に始まった、と聞いていない。
そして、根本的に「オンラインでのサービスには限界がある」。
なぜなら、ペアダンスはあくまでペアがいないと始まらないからだ。例えば、ジャズやヒップホップなどは一人で踊れる。しかし、タンゴは相手がいないと始まらないのだ。もちろん、一人で練習できるものもたくさんあるが、やはりどこかで限界が来てしまう。ペアでオンラインレッスンを受けていても、一人よりはましだが、どこかで限界が来るし、運良くダンスペアで一緒に住んでいるケースは決して多くない。
結論は
どんなにリモート化が進んでも、タンゴに関しては、オンライン上のサービスに限界がある
2、今後起きてくる動き
次は、昨今の出来事がある程度収束した後に、起きてくることを2つ考えてみたい。
■高齢者の参加の減少
高齢者は基礎疾患がある人が多い理由で、重症化や死亡につながりやすいと言われているので、収束後もしばらくは自粛もしくは、主催者側からの依頼で、高齢者の参加が減少するだろう。
日本では、高齢者自体の数は年々増加し、健康で新しくタンゴを始める人もいるが、今まで踊っていた人の一部が、タンゴを自粛・制限することを考えると、高齢者マーケットが魅力的ではなくなっていくことは確実である。
この点は、日本のタンゴは、他のアジアと比較しても、高齢者の割合が多いので、高齢者参加の減少は、日本のタンゴマーケット自体の縮小につながる。
■タンゴスタジオの減少
これは、先生の減少という意味ではなく(現時点でその可能性も高いが)、スタジオを自分で所有する人が減る、という意味である。
今回の出来事で、スタジオを所有するリスクが非常に大きいことが判明した。スタジオを所有するリスクを冒すぐらいなら、時間制で借りた方が、はるかに合理的であることが判明し、多くの人が自分のスタジオを手放し、以前と違う新しい場所で、レッスンやミロンガが行われていく。一方で、現在のスタジオが三密に対応できるのであれば、継続するところも出てくる。
また、スタジオを持たないことで、スタジオ側と先生との雇用・被雇用の関係がなり、フリーランスの先生が増え、活動の拠点もより自由になっていく。
では、これによって、日本のタンゴ全体がどう変わっていくか。
・高齢者の減少により、ターゲットは、20-30代の元気な若者になる
・在宅の高齢者向けの新しいサービスが生まれる
・少人数のプライベートイベントが増える
・タンゴスタジオの減少により、賃料や人件費などの固定費が安くなるので、レッスン代も安くなる可能性が出てくる
・タンゴの拠点が地方で増える
以上のような流れが生まれる可能性が高いし、これは決して悪い流れではない。
ゆえに、このピンチをチャンスと捉えて、行動すれば、
「今」が、日本のタンゴを変えていく転換期となるだろう。
しかし、、、
これをチャンスととらえずに、誰も何もしないと、
・日本のタンゴマーケットが縮小する
・クラスやミロンガや演奏会などのイベントが減る
・多くのダンサーや演奏家が生活できなくなる
ということが近い将来に起こりうるだろう。
3、タンゴの将来のためにすべきこと
では、大好きなタンゴを守っていくために、どうしたらいいのか?
一番重要なのは、「話し合う場を設ける」ことだと思う。直接的な答えになっていないが、今できることはこれぐらいしかない。私にもいくつか考えがあるし、他の人も意見や提言があると思う。
参加すべき人たちは、タンゴダンスを教える先生だけではなく、ダンスを学ぶ生徒、ミロンガ開催者、演奏家、演奏を学ぶ生徒、歌い手、歌を学ぶ生徒、タンゴ衣装デザイナーなど、タンゴに関係する人全てが関わっていく必要がある。もちろん、地方事情も大事なので、北海道から沖縄までの人がいたら、最高だ。海外の日本人でもいい(自分を擁護しているわけではない笑)。
もちろん、タンゴダンスを教えてきた先生は、一時的に生活の糧を失って、それどころではないし、コンサートが中止になって、活動の見通しが立たない演奏家の人も、どうにかしないといけない状況であることは重々承知だが、今後「5年のような長期スパン」で考えていかないと、気づいた頃には生徒が誰もいない、タンゴのコンサートがない、ということになりかねない。
それほど、ペアダンス、タンゴは、これからの世の中の流れに、逆らいながら、生き続けていくという、大変な道であることを覚悟する必要がある。もちろん、流れに逆らうことが悪いわけではなく、ただ、「濃厚接触」というタンゴのポジションが「今」の流れと真逆にある、ということで、十数年後には、流れが戻ってくる可能性は多いにあると思う。
以上は、個人的な類推と提言にしかすぎないので、賛否両論あることは分かっている。もっと重要なのは、これを機に我々の大好きなタンゴをどう守っていくか、そしてもっと広げていくか、を一人一人がもう少しだけ真剣に考えることではないかと思う。そして、実際にそれを「行動」に移すことだ。
今回、noteというツールを通して、行動してみた。
次回は、もう少し具体的な「行動」を紹介したい。
長文を最後まで、ご覧いただき、感謝の意を表しつくせない。