二刀流・矢澤宏太選手の可能性
最大の武器と向上心と伸びしろ
私が長年、取材・制作の担当をしている「Smile Sports」の最新号が発行となりました。今号では卓球の早田ひな選手、アーティスティックスイミングの佐藤友花&佐藤陽太郎姉弟のインタビューに加えて、今年のドラフトの目玉と呼ばれる、矢澤宏太選手にもインタビューをさせてもらいました。ここでは矢澤選手のプロでの可能性について考えてみたいと思います。
まずは簡単にプロフィールから。2000年8月2日、東京都町田市出身の22歳。左投左打の投手兼外野手です。藤嶺藤沢高校を経て日本体育大学に進学すると、1年時から外野手として公式戦に出場し、2年秋には打率.368の好成績を残して、首都大学リーグのベストナインに選ばれています。3年時から投手と野手の二刀流として活躍し、今春のリーグ戦では投手として4勝、防御率1.83、打者としては打率.350、1本塁打、8打点と、投打に好成績を残し、大学日本代表にも選出。今年のプロ野球ドラフト会議の目玉として注目されています。
野球界の二刀流といえば、ロサンゼルス・エンゼルスで活躍する大谷翔平選手が頭に浮かぶと思いますが、矢澤選手は大谷選手とはまったくタイプが違います。本人も「テレビで見る雲の上の上の人」というくらいです。そもそも大谷選手は別次元なので、誰とも比較することはできません。
矢澤選手は173㎝、71㎏と、プロを目指す選手としてはとても小柄です。同じ“二刀流”と言っても、大谷選手とは体格もプレースタイルも違い、目指すところが違うわけです。
矢澤選手の投手としての武器は最速152㎞のストレートと、縦横2種類のスライダーのキレ。野手としてはパンチ力のある打撃と50m5秒台の俊足を武器としています。彼に話を聞いていて、それ以上に武器となりそうなのは、「向上心」と「伸びしろ」だと感じました。
矢澤選手は「プロで通用する投手になるため」に日体大に進学。日体大には元プロ野球選手でもある辻孟彦さんが投手コーチとして在籍しています。近年は私が応援するベイスターズの右腕エース・大貫普一投手をはじめ、2018年のドラフトで西武の1位指名を受けた松本航投手、ロッテ2位指名の東妻勇輔投手、2019年、ヤクルトのドラフト2位指名の吉田大喜投手、2020年、中日のドラフト2位指名の森博人投手など、数多くのプロ選手を輩出しています。
この辻コーチの指導のもと、まずは腕を振ることを徹底して磨き、打者の反応を見ながらの駆け引きや考える投球を覚えたことで、「ピッチャーが楽しくなった」と言います。まだまだ投手としては未完成でありながら、年々、成績を向上させているポテンシャルも見逃せません。
「僕がバッターとして打席に立っているときは、どんなに変化球がいい投手でも、ストレートが弱いと変化球も大して良く見えないんです。でもストレートがいい投手は、それほどすごくない変化球でも良く見えるんです。だから投手としてはストレートを一番大事にしています」
辻コーチと二人三脚で磨いてきたストレートは、まだまだ球速、キレともに伸びていくでしょう。秋のリーグ戦ではMAXの更新もあるかもしれません。
その投手以上に伸びしろがあるのが野手としてです。実は矢澤選手は大学入学以来、投手の練習がメインで、野手としての練習は特別にやっていないというのです。ナチュラルに野球センスだけでプレーしながらの好成績。さらに足の速さや肩の強さという、後天的に備えることができない武器をすでに装備していることも強みです。野手として本格的に練習をしていったら……その伸びしろは計り知れません。
プロでの二刀流はあるのか?
では、矢澤選手はプロでも二刀流でプレーすることになるのか? それとも投手なのか、野手なのか? おそらくドラフトに向けて、こうした話題がどんどん出てくることになるでしょう。矢澤選手に「プロでも二刀流をやりたいですか?」と問うと、彼はこんな答えを返しました。
「自分の中では2つのことをやっているという意識はなくて、これが僕のやってきた野球、僕の野球なんです。プロになってからのことは自分だけでは決められません。ただ、今の自分ができることは、その先の選択肢を広げられるように頑張ることです」
「その先の選択肢を広げる」とは、プロでも二刀流で勝負したいという意思表示です。もしも、プロでは投手では通じない、あるいは野手では通じないという評価になれば、どちらかに専念することになります。そうではなく、「二刀流でプレーしてほしい」と球団に評価されれば、どちらも選択できるということ。矢澤選手は、そのために毎日を全力で過ごしていくと言いました。
プロの球団がどんな評価をするかはわかりません。ただ、矢澤選手には無限の可能性があり、大谷選手の二刀流とはまた違ったやり方も考えられるかもしれません。あくまでも妄想ですが、たとえば普段は1番や2番を打つ外野手としてプレーしながら、終盤には左のワンポイントとして登板するといった形の二刀流。あるいはベンチに控えていて、代走で出場して、そのまま中継ぎとしてリリーフ登板するといった形の二刀流。もちろん、大谷選手のようにローテーションに入りながら、主力打者としてもプレーするケースも考えられるでしょう。いろいろな妄想ができる魅力的な選手であることは間違いなく、とにかくケガなくドラフトを迎えてほしいと願うばかりです。
我がベイスターズはあいにく、左の大卒投手、左の大卒外野手は、補強ポイントではないので、矢澤選手の指名はないと思います。とはいえ、これだけ魅力的な選手は、これからも追いかけていきたいので、彼がプロの舞台で輝く姿を期待しております。
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