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112年の時を経てメダリスト誕生の近代五種
パリオリンピックは日本選手の素晴らしい活躍が続き、連日寝不足という方も多いのではないでしょうか。今大会は様々な種目でメダリストが誕生していますが、オリンピック種目化から112年の時を経て日本に初のメダリストが誕生日した種目があります。“キング・オブ・スポーツ”と呼ばれる近代五種にて、佐藤大宗選手が銀メダルを獲得しました。日本では馴染みの薄い方が多いと思うので、今回は近代五種の話を書いていきましょう。
古代五種と近代五種
「近代」ということは当然「古代五種」も存在しました。古代五種は紀元前708年の古代オリンピック第18回大会から実施されたと言われています。走幅跳、円盤投、スタディオン走(短距離走)、やり投、レスリングの五種目で競われました。これに倣い、近代オリンピック提唱者のピエール・ド・クーベルタン男爵によって、「近代オリンピックに相応しい五種競技を」ということで新たに考案されたのが近代五種なのです。
1912年のストックホルム大会から正式種目として採用されて、フェンシング、水泳、馬術、レイザーラン(射撃&ランニング)と、まったく性質の異なる五種で順位を競う、新日本プロレスよりも先に“キング・オブ・スポーツ”と呼ばれていた競技です。5種目を連続しておこなうため、肉体的にも精神的にもハードになります。
ただし、フェンシングのランキングラウンドだけは、出場36選手総当たりでかなり時間がかかるため、前日に実施されます。2日目は水泳(200メートル)→フェンシング(全身が攻撃面のエペ)→馬術(障害飛越)→レイザーラン(射撃5的、800メートル走を4回)。各種目のポイント1ポイントにつき1秒として、最終種目のレーザーランのスタート時間に反映。結局、レーザーランで一番にゴールした選手が勝ちなので、それまでポイントが複雑でも、順位決定は非常にわかりやすいのも特徴です。
競技のコンセプトは斥候
ところで何でこの五種目なの?と疑問が湧くと思います。柔道、レスリング、空手、ボクシング、テンコンドーとかなら、強いヤツ決定戦みたいでわかりやすいけど、水泳、馬術、フェンシング、レーザーランから共通点を見つけるのは難しいですよね。でも、この五種目であることにはちゃんと意味があるんです。
この競技の元々のコンセプトが軍人が自軍の陣地から別の陣地に伝令に走る斥候(せっこう)、言わば偵察の役割が競技のベースとなっているのです。
伝令のために馬に乗って出発(=馬術)。敵と遭遇したら剣や銃でたたかう(=フェンシングと射撃)。川を渡るときは泳ぐ(=水泳)。そして最後は走って味方の陣地に向かう(=ラン)。こうしたストーリーのもと、五種目が設定されたのです。ちなみに昔は水泳の距離が300メートルでした。通常の競泳は100、200、400、800と300はないのですが川を渡るという考えのもと、川幅をイメージして300メートルという距離設定だったそうです。
馬術で選手が乗る馬は抽選によって決まります。通常の馬術競技では選手は自分の持ち馬に乗りますが、近代五種は主催者が一定レベルに調教された馬を約30頭用意します。その中から18頭を選んで抽選で選手が乗る馬を決定します。点数の低い18選手が前半に乗り、点数の高い選手が後半に乗ります。選手にとっては初めて乗る馬なので、事前情報はありません。後半の選手は前半に馬の様子を見ることができる利点がある反面、馬が前半で調子を崩す恐れもあり、これは前後半でどちらが有利とは一概には言えません。
最後まで勝負がもつれがちなのもこの競技の面白さです。最後のレーザーランでは1分差くらいで多くの選手がスタートしていきます。射撃(10メートル離れたところから直径6㎝の的に5発当てる)が急に当たらなくなったり、800メートル(×4本)が速い選手が追い上げたり、最後の順位争いがスリリングです。一日競技を見てきて最後にドラマチックな結末ということもあるので、見る側の満足度も高い競技なんです。
2028年ロサンゼルス大会から競技変更
五種の理由が斥候と紹介したばかりで恐縮ですが、実はこの五種でおこなわれるオリンピックは今回が最後です。2028年ロサンゼルス大会からは、馬術に代わって「オブスタクル」が加わります。「オブスタクル」とは「障害物」の意味で、いろいろな障害をクリアしてタイムを競うスポーツ。日本のテレビ番組「SASUKE」がベースとなっています。「オブスタクル」が入ることで、今後はまた違ったドラマが展開されることになるでしょう。
というわけで、今回はここまで。佐藤選手の活躍を機に、ぜひ近代五種にも興味を持っていただければと思います。
おわり。