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鳥たちの昼下がり

チーチーチーチー
ピピピピピピ
チュチュチュチュ
やけに外が騒がしい。

私の仕事机はキッチン横の窓際にある。窓は東南を向いていて、明るく見晴らしが良い。私の年と同じほど古い5階建てのマンションの3階。ベランダからは駐車場と雑木林、その向こうには遠く海と街が小さく見える。昔は今より雑木林が広く残っていて、もっと景色が良かったらしいが、私達が越してくる少し前に戸建ての住宅街が出来ていた。3階からの目線左手にはその屋根が連なって見えている。住宅が建つ前の条件に高さ制限をつけてくれたお陰で、その屋根の向こうには近くの森林公園の山が見える。そこから朝日が姿を変えて昇ってくるし、夜は正面に残る雑木林の上の隙間から、夜景が見える。雷の鳴る日は稲妻がハッキリ見える。めちゃくちゃ絶景ではないけれど、悪くはない。
山が近いせいもあってか、ベランダに鳥がよくやってくる。雀に燕、メジロ、ヒヨドリ…。駐車場にはセキレイがチョンチョンチョンと弾んでいる。ベランダにオリーブの木がある。7.8年ほど前に農協で買った苗だが、どうにも形が気に食わなかったので、今年は思い切って剪定をした。買ってすぐから、たくさんの実がなったが、実はいつも鳥さん達に全て食べられてしまう。
今年は思い切りの良すぎる剪定で実は期待していなかったが、逆に生命の危機を感じたのか、これまで以上に花が咲き乱れて実も育った。まだ1㎝程だが、メジロの番が見に来ている。君にはそのくらいの大きさが良いだろうけど、まだ熟していないよ。分かるはずもないけど、窓際で様子を見ながら小さくつぶやく。
鳩のつがいも子育てするための巣を探しにやってくる。強力磁石もキラキラ作戦も効きやしない。クルック、クルックとやってくる。一度巣を作られてしまうと覚えて毎年来てしまうらしいから大変だ。加えて厄介なのは、鳩は鳥獣保護法により守られており、むやみに攻撃できないから本当に頭を悩ませる。対応によって、ベランダの景観が悪くなるのも嫌なので、透明のテグスを手摺に巻いて止まれないように対処している。ま、それでもやっぱりテグスを避けて止まって、家のベランダを偵察していることがあるので困る。毎年、鳩との闘いは大変なのだ。
今年はそういえば鳩の姿をあまり見ない。きっとカラスがいるからだと思う。ゴミ捨て場を荒らすカラスちゃんたちだが、鳩除けにはカラスが一番よく効く。鳩にとってはカラスは天敵らしい。近頃、2羽のカラスがウロウロしている。住宅街の屋根の上やマンションの屋上、そして、雑木林の木にヒュイーンと飛んでくる。

チーチーチーチー
ピピピピピピ
チュチュチュチュ

突然聞こえたのは、10年ここに住んで稀に聞く鳥たちの騒々しい鳴き声だった。いつだったかテレビで鳥の鳴き声の違いがどうだというのを見たが、この騒ぎは正しくその時に言っていた「警戒」の意を表現する鳴き声だった。雀だろうか…。結構な数の小さい鳥が一斉に、雑木林の一本の木から逃れるように警戒鳴きしながら飛んできていたのだ。実際には四方に散らばったのだと思うが、木を正面に捉えて見ていた私には鳥たちがこちら目がけて飛んできたように見えて少し動揺した。ヒッチコックの「鳥」を思い出した。あれほど大きな鳥ではなくもっと小さな鳥だし、私を襲うために向かってきたのでなく逃げてきたのだが、迫ってくる鳥達の迫力に圧倒された。人である私でさえ、同じく警戒してしまう必死の鳴きだった。
あの木にあれほどたくさんの鳥がいたとは…と感心した。木は大きく揺れていた。揺らしているのはカラスだ。どうやら襲ったようだった。
最近、カラスには鳩の件で感謝の念を感じていたが、やっぱりカラスはヒールなのか…。カラスもお腹を空かせていたのかもしれない。しばし、背筋を伸ばし、首も伸ばして呆然とその光景を見ていた。目も良くないし、遠くだし、木の葉の陰で詳細はよく分からないけど、やっぱり何かをしたらしい。
しばらく騒ぎは落ち着かなかったが、カラスがその木から離れて姿を消すと静かになった。
ほどなくして静けさが戻ると、何もなかったように燕の飛行訓練が始まった。窓を開けていたら、その勢いで入って来そうなくらいの俊敏さだ。毎日毎日訓練を欠かさない。初めはどこかぎこちなかったのに、一人前に華麗なターンをしていく姿は誇らしげだ。
しばらく燕の飛行ショーを楽しんでパソコンに向かった。
まだ少しドキドキしていた。

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