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少女の背中

激しいものでは無いにしろ、少し反抗期だった中学生くらいの頃だったと思う。

「ママも一人の女性だったんだ…。」

と当たり前のことに気づいた。

夕食の支度を面倒くさそうに手伝い、席に着き、何に腹を立てるでもないのに、ふてくされた様子で食べ始めた。母に行儀が悪いと注意されて、ため息をつくと、今度はため息をついたことに怒られて…。うんざりだわっと母の顔を見ると、「私はあなた達のことを思って言ってるの。」と言って、母は号泣し始めた。私は困惑して固まり、とりあえず「ごめんなさい…」と謝りはしたが、始終ふてくされていたことなのか、注意を素直に聞き入れなかったことなのか…何が母を号泣させるまでに至ったのか分からずにいた。その後もしばらく、真っ赤に目を腫らして泣き続ける母を見つめながら、この号泣の理由が自分ではないことに少しずつ気づき始めていた。

母には若い頃、家出をした経験がある。関西から友人を頼って東京へ。東京へ行けば何かが変わると信じて。毎晩のように友人二人と三人で語り合ったそうで…。というよりは、二人によって、東京に来たからと言って何も変わらないこと、自分という人間を明らめること、何をどのように考えるのか、それは正しいのかどうなのか…と言うような事を徹底的に考えさせられた時間だったそうだ。二人の意見がそぐわず、間に入って困ることもしばしば。振れば音がするような中身のない自分を、少しは色々なことについて考えてみようと思えるようにしてくれた二人の友人は、母の青春そのものだった。その一人が自ら命を絶ったという知らせが来たのがその夜だった。

後になって、母はそのことを話してくれた。父と出会い結婚しなければ、私や妹はこの世には存在していない。そのことに後悔はないけれど、自分にはかけがえのない存在として二人の友人の存在があり、今の自分があるのだと。背中を小さく丸めて座り込み、箪笥の奥から大事そうに出してきた古い写真を抱きしめて、子供の様に泣いていた後ろ姿は、母ではなく少女だった。


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