ノケモノとワタシ
これは、劇作家/演出家/パフォーマー 小林賢太郎の作品『ノケモノノケモノ』に出てくる、ある台詞だ。この時点で、おっ!と思った方、握手を交わしたいくらい嬉しい。
久しぶりにこの作品を観て、心が大きく揺れ動かされたので、この感情を取りこぼさないよう、急遽noteを書いている。
※『ノケモノノケモノ』のネタバレ一部あり
まず、この作品の主人公は大手自動車企業に勤める中年サラリーマン。ひょんなことから異世界に連れて行かれてしまい、そこで本当の自分を見つけるというストーリーだ。
話の中盤に出てくる異世界の人間との会話が非常に印象深く、自分のことのように考えさせられる。
サラリーマンの男は、名刺を出しながら鼻高々に自己紹介したり、自分が愛用している高級時計を見せて、自分は特別なんだと訴える。だからノケモノ(除け者)なんかじゃないと。
でも、「それは組織の話だ」「それは持ち物の話だ」と突き放されてしまい、自分は一体誰なんだと自問自答していく姿が痛いほど共感できる。
自分の価値観を組織や持ち物、人脈で測ろうとするのは、可視化できるからというのもあるけど、本当は社会から疎外されたくない、ノケモノになりたくないと言う気持ちから来るのかもしれない。
武器をたくさん仕込んでおかないと戦場に出られないし、相手を威圧することだってできない。承認欲求だって満たされないし、自己肯定感はいっこうに高まらない。
現代社会ってそんな感じがする。心が幾つあっても足りない。
でも、どうせだったら「私は◯◯◯が好きなんだよぉぉ!」みたいに、好きなことや得意なことを遠慮なしに言える世界が良いな、とか思ってしまう。そうしたら、個人の価値観がもっと煌びやかに光るはずなんだ。
◇◇◇
これは、作中で私が一番好きなフレーズだ。この台詞を聞いた時、ある光景が脳裏に浮かんだ。
ニュージーランドからの一時帰国中、電車に乗るだけでその時の流行が大体わかるという現象。一人ひとり単体で見ると、ヘアスタイルや小物で全く違うのに、全体的に見ると洋服のコーデや色使いが同じことが多い。
ファッション評論家でもないのに、そんなことをぼーっと考えながら車内を見渡していたっけな。
個性的でありたいと願いつつ、周囲から飛び抜けるほど個性的にはなりたくない。周囲に馴染んで認められたいと思いつつ、量産型にはなりたくない。
なんて矛盾しているのだろう。
でも、作中でサラリーマンがそんな煩悩を振り払おうとする姿を見ると、それが人間なんだと妙に腑に落ちた。だからさ、注目されたいと願うことも、同調したいと感じることも、きっと当たり前の感情なんだよね。
◇◇◇
私は集団行動がどうも苦手だ。煩わしいとさえ感じてしまう。
もちろん、気の合う友人や職場のメンバーと楽しい時間を過ごすことは好きだけど、人数が多ければ多いほど気疲れしてしまう。深海くらいディープに会話したいから、私の許容人数は5人がいいとことろ。
一つ付け加えると、私はシャイではない。かなり社交的な方だとさえ思う。だけど集団での飲み会や旅行になると話が変わる。
なぜなら、人数が多いほど「皆んなの共通の話題」についていけないからだ。会社内でのゴシップや芸能ネタ、愚痴の連鎖などが続くと、自分だけ取り残されている感覚に陥ることがある。
特に私は芸能ネタに非常に疎く、日本を離れていた時は本当に酷かった。
一時帰国中で旧友と飲みに行った時、皆んながももクロの話で盛り上がっていた。内容が理解できない私は「何それ?美味しそうだね!お菓子の新商品か何か?」と聞き、皆んなにドン引きされたのを今でも覚えている。
その当時私にとって日本の芸能情報は、それくらい優先度が低いものだった。(今は大分マシになりました!)
とまあ不思議なもので、そんな状況に置かれると自らノケモノになってみたりする。皆んなの会話を横で聞きながら、思考はどこか違う所に飛ばしたりして。
昔は「付き合いが悪い人」だけにはなりたくなくて、どんな誘いも応じていた。でも自分が心地よいと感じる環境を知ってからは、無理に人脈を広げることもないかなと。
もちろん人脈が広いに越したことはないけど、私はそれよりも一つ一つのご縁を大切にしていきたい。
◇◇◇
英語圏では、自己成長に必要な行動として“Get out of your comfort zone!”(快適な空間から抜け出そう!)という言い回しが良く使われる。私自身いつも心掛けていたけど、最近考え方が少し変わった。
確かに成長する為には自分のキャパを広げる必要がある。色んなことに挑戦することも重要だ。でも、だからといって絶望的な環境に身を置くことも、歯を食いしばり続けることもないと思う。
大前提として、まずは自分が心地良い環境にいることが大切で、その上で挑戦できそうだったらしたらいい。嫌な上司や同僚がいたら、一喜一憂しないでのらりくらりとかわしたらいい。
ノケモノと言われることがあったら、「まあそんなケモノいたら、むしろ見たいですけどねえ〜」と笑い飛ばしたら良い。
そうやって色々なことを都合良く解釈しながら、自分が楽になる道を見つけていく。そのくらい自分に甘々でも良いんじゃないかなと思うのです。
なお、自分に甘くなれないよーという方、『ご褒美リスト』をつくり、毎月何かしら自分にご褒美をあげることをお勧めします。一緒に甘くなりましょう、自分に^^
【12/11追記】なんと『ノケモノノケモノ』がYouTubeにアップされていました!!興味がある方は是非観てください〜!
Photo by Marek Szturc on Unsplash