30年会ってない従姉へのファンレター
私の実家は、父方の親戚と縁遠い。昔からあまり会わない親戚なので特に気にも留めてなかったのだけど、私の中で唯一、強烈に印象に残っている父方の親戚の思い出がある。
小学生の頃、祖父母に会いに行った時に、ちょうど居合わせた中学生の従姉が一緒に遊んでくれたことがあった。きっと私が、大人の会話をつまらなそうに聞いていたんだろうと思う。遊ぶと言ってもおもちゃも何もなかったので、紙と鉛筆を持ってきた従姉は「絵は好き?」と訊いてくれた。自分が何と答えたか覚えてないが、従姉は鉛筆を走らせて、ヤシの木の下で麦わら帽子を被っている女の子の絵を描いてみせてくれた。
「漫画家みたい!魔法みたい!!」
風に揺れるワンピース、麦わら帽子の質感、鉛筆でこんな絵が描けるんだ!というその感想を声には出さなかったけど、私は従姉のあまりの画力に心底驚いた。将来ぜったい漫画家になれる人だ!!とその時一瞬で従姉の絵の虜になった。
その時に描いてもらった絵がとっても欲しかったのに「もらっていい?」の一言が恥ずかしくて言えなかったことを、高校生になるぐらいまで、たまに思い出してはずっとずっと後悔していた。それほど従姉がサラリと書いたその絵が大好きだった。
歳が離れていたこともあって、従姉との接点は私の記憶の中ではそれ以外あまりなかったけど、「美大に進学するらしいよ」「大手のゲーム会社に就職が決まったらしいよ」と、折に触れ従姉の近況を聞くたびに、さすがだよ、やっぱりね、そうでしょうよ、と深くうなずくなどしながら陰ながらめちゃくちゃ応援していたし、従姉が関わったゲームが出たらぜっっったい買う!と思っていた。
結局その後、結婚を機に退職するんだって、と聞いて心底がっかりした。
従姉がどういう経緯で退職を決意したかも知らないくせに「やっぱり女子はそういうところで損するんだな」と一人で勝手に少し絶望したりもした。
でも数年経って何かの折に叔母から、従姉が今も絵を描いていて、詳しいことは分からないが年に2回ぐらい東京に行っていて何だかとても忙しそうだ、と聞いた。
誰にも言わなかったが「コミケやん。人気絵師やん絶対。」と一人で静かに確信した。
そうか、まだ絵を描いてるんだ!よかったなあ。と心底嬉しかった。
そして長い時を経て、従姉も私も大人になり気付けば40歳を過ぎた。
自分が社会人になった頃には従姉家族とはますます疎遠になっていて、近況を聞くことすらなくなっていた。
2020年の年初、実家にいた私は、母から1枚の年賀状を渡された。
「さすがに上手だわー」と感心している母から渡されたハガキには、晴れ着姿の女の子の絵が描かれていた。
上手とかいうレベルじゃないじゃん?プロじゃん?見てよこの彩色の美麗さ。と内心めちゃくちゃ高ぶりつつも、私は目ざとくイラストの端っこに小さく添えられたサインを捉えていた。
ペンネームをTwitter検索。秒でアカウントを補足!
いた!こ、こ、これだ~~~~!!!
我ながらめちゃくちゃキモちわるいな、と自覚しており、従姉のTwitterアカウントをフォローしたのは数ヶ月後だった。
(数ヶ月寝かしてるのがさらにキモい、という自覚ももちろんある)
キモさを自覚していたので、インターネット沼に浸かっている従妹にTwitter見つかって親戚バレした、みたいになってしまったら従姉に申し訳ねえ…と思い、忙しそうだな~でも元気そう、と自分だけでTwitterを眺めるのみに留めていたのだけど、秋頃に従姉がTwitterで、突如具合が悪くなってしまったとつぶやいていた。
「従姉のTwitter見てるんだけど、何日か前に具合悪いってつぶやいてたから気になる。大丈夫かな?」
実家に電話して父に伝えた。父はすぐさま叔母に電話してくれたらしく、従姉は今は元気で、大丈夫らしい、と教えてくれた。
そこで私が従姉をひっそりと応援していたことが周知の事実となり、先日、家にあるやつだけだけど…と言って叔母がマンガを送ってくれた。
実はAmazonで作者検索して、既に従姉が描いたマンガは購入済だったのだけど、送ってもらえたことが嬉しくて、買って読み終わっていたマンガをもう一度読んだ。
あ、私って、めちゃくちゃファンだったんだなー。
そんなことを考えながら読んだマンガには、あの日に鉛筆で描いてもらった絵の面影が残っている気がした。
直接話す機会はなかなかないけど、一生応援しています。
くれぐれも体に気を付けて、素敵な作品を紡ぎ続けてください。
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