ライブの醍醐味 In the Moment
初めてライブペインティングをしたのは、忘れもしない、2年前の4月だった。
生演奏に合わせて即興で、観客のいる前で絵を描く行為を一般的にライブペインティングを言うのだが、想像してみて欲しい。
普段アトリエで一人粛々と描いている環境から、何十人もの人がいる前で、大作品を限られた時間内で、演奏からインスピレーションを得て、即興で描くとしたら。
ビビるよね。
私もビビりました。しかも演奏者はドイツから呼んだりして。始まる前は、恐怖で全身が凍りついていたのを今もありありと思い出す。
それでも、ライブペインティングって最高だな、と終わった後に思ったものです。なにものにも変え難い、その場の皆さんと共鳴しながら描く行為。
これからどしどしやっていこう!と思い、その年は計3回開催した。翌年もどんどん!と思ったのだけども、コロナ禍の中、その夢は砕け散り、いつしかライブペイテンティングを開催する意思を忘れかけていたところ...。
松坂屋名古屋にて410周年企画として「松坂屋アートセッション」が開催され、その企画の一つとして開催してきました、ライブペインティングを。
周年企画の一環として、「マツカドピアノ」を通して一般の方がどなたでも演奏ができる取り組みがあり、そのピアノの前で私は一枚の大きな絵を描かせていただくという内容でした。
当然、どんな曲が奏でられるのかもわからないし、演奏者も目まぐるしく変わる、という設定。しかも、これまで開催したライブペインティングは全て演奏者もしくは私のことを知っている方々(つまり好意的な観客)、且つわざわざチケット代を払ってきてくださる方々のみだったのに対し、今回の松坂屋イベントは無料なためどんな人も観に来れる(冷やかしとか?)。
しかも、前回までのライブペインティングは全てモノクロもしくはメインカラーを決めて臨んでいたのに対し、今回は色とりどりの作品にしよう、と決めていた。
要は何が言いたいかというと、自分の中でイベント自体へのハードルがめちゃくちゃ高かった、ということです。
だからか、始まる前、そして始まってから何分かは、指がかすかに震えていた。「それだけ緊張しているんだな」とどこか客観的に思っている自分がいた。
ところが、途中から「めっちゃ幸せだな〜」としみじみ感じ入りながら描いている場面もありました。こうやって好きに自由に描ける場があって、生演奏を肌で感じながら、いろーんな方に見守られながら、描けるって最高に幸せじゃないか、と。
話がそれますが、名古屋から帰宅後に読んだ夕刊に、『まっくろ』という絵本の刊行記念対談が掲載されていました。以下抜粋します。
「わからないものを面白がるのが、難しい時代になっているかもしれません。何かを調べることが癖になっていて、予想外のものとの出会いが減っている気もします。でもそれは、すごくつまらないんじゃないか。自分がどんなものと出会うのかと、ドキドキしながら楽しむ力って大事だな。」というくだりがありました。
さらにその対談はこう続きます「感動できる能力とでもいうか。一つの枠を決めて、そこに入ってきた物だけに感動できるようにじゃだめなんだよ。自分の入れ物なんて、狭苦しいものだから。」と。(10月16日朝日新聞夕刊より抜粋)
これはまさにライブの面白さについて体現している内容じゃないかと思って。
つまり、もし、あらじめこういう音楽を奏でます、こういう絵を描きます、と決めていたとしたら。より完成度の高い作品が生まれるかもしれないけども、予定調和で何も面白くない。そしてそのエネルギーは必ずや観客側にも伝播する。「何が出てくるのかわからない」ということこそがライブの醍醐味であり、それが人の心を動かすのではないか、と。
冒頭の指の震えに気づいた人がいたかどうかはわからない。でも、もし気づいた人がいたとしたら、それさえも、隠すものではなく、ただ、見せていくもの。あの緊張は本当にそこにあったものだから。また、最後の方が演奏したZARDの名曲「負けないで」が流れてきた時、思わず歌詞を口ずさみながら描いていた自分もいた。アメリカで日本人学校に通っていた頃、運動会のテーマ曲がそれだった。一瞬脳内が運動会で走っている自分になった。マスクに隠れて見えなかったかもしれないけど、私は確かに笑っていた。
これからも、私はライブペインティングに挑戦し続けたいと思っています。この行為は私にとって、根源的で大切なテーマを含む取り組みだから。つまり、
「今」を大事にする。
「ここ」に集中する。
五感全てを使って。
目に見えないものを感じ取って。
ということを。
そして、それは私だけが大事なのではなく、これを読んでみるあなたにとっても大切なものなのではないか、と密かに思っています。だから、冷やかしでもなんでも、機会があったら、ライブペインティングに足を運んでみてください。その場でしか伝わらない、伝えられない、共鳴する空間を、今この瞬間を、味わえるから。
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410周年企画 「松坂屋アートセッション」は26日まで。完成品もピアノの前に期間中飾ってありますし、全館にアートが張り巡らされていますので、芸術の秋を感じに訪れてください◎
主催: 松坂屋名古屋店
企画: 野中さつき
撮影: 村松裕哉
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