やくもが切る風
今日が381系やくもの最後の運行かもしれない。そしてこの便がこの日の最後のダイヤでした。遅い時間とはいえ満席になってもおかしくないのに、2人がけに1人ばかりでした。
それなのに私の席に限ってとなりに人がいました。網棚にあげられない、足の前にも置けない大きさの荷物をかかえていたので通路を通りにくい人が多数出てしまいました。そして暖房がとても強かった。
駅に停車するたびに往来が激しくなるので、荷物を寄せて備中高梁駅からしばらくデッキにいました。ドアは、隙間から外気がはいるので、近寄ると風が来ます。外の冷気が心地よかった。マロンが切る風を感じたくて、よくドアに顔を寄せて、来る風を思い切り吸い込みたくて深呼吸を繰り返す。そんなことをしていました。マロンより風は少なかったですが、確かにやくもが切る風が来ていました。生まれた時初めて吸った空気は一生肺に残ると聞いたことがあります。きっとこの空気もずっと残る、力となって、息をするのもやっとの日々、助けてくれる気がして、漏らさず吸い込みたい、という勢いで呼吸していると、吸えば吸うほど涙が流れました。泣かなくていいよ、とやくもは言ってくれました。窓の広い範囲が曇りました。川が多くのどかな高梁の風景が、とてもあかりの少ない夜でも顔を近づけると見えて、心を和ませてくれました。
となりに誰もいなかったらこのひとときはなかっただろうと思うと、本当によかったと思いました。