グリーン水素に弾み、米国で40億ドルの工場建設 (WSJ 12/12)
（Wall Street Journal 12月12日付け）
エアープロダクツ社とAES社は、合弁で、米国最大規模の風力・太陽光を利用する工場を計画している。
産業用ガスメーカーのエアープロダクツケミカル社とAES社は、テキサス州北部に40億ドル規模の再生可能エネルギーによる水素工場の建設を計画している。
2027年に操業開始予定の本工場は、閉鎖された石炭工場の跡地に建設され、太陽光と風力発電で水素を製造する。パリに本部を置く国際エネルギー機関（IEA）のデータによると、本工場は、年間7万3000トン以上の水素の製造が可能で、米国では最大、世界でもトップ10に入る施設になるという。
二酸化炭素を排出せず、自然エネルギーによる電力を使って水から製造されるため、グリーン水素と呼ばれるが、その製造には莫大なコストが必要となるため、これまであるほとんどの工場は小規模なパイロットプロジェクトだ。大規模な工場は、ヨーロッパやサウジアラビアに数えられるほどしかない。
クリーン電力プロジェクトに税制優遇措置を与える法案が8月に米国で可決されたことで、こうした経済性が変化し、低炭素水素の商業的な実現が可能になりつつあると、両社は述べています。は
しかし、グリーン水素の製造には法外なコストがかかるため、これまでのところ、ほとんどの工場は小規模なパイロットプロジェクトであり、ヨーロッパやサウジアラビアに大規模な工場があるに過ぎない。
両社は、2022年8月に、クリーン電力プロジェクトへの税制優遇措置が認められる法案が米国で可決されたことで、経済性が変化し、低炭素水素の商業的な実現が見えてきたと述べた。
本プロジェクトにおいて、太陽光発電所と風力発電所を運営するAES社（米バージニア州）の、アンドレス・グルスキー（Andrés Gluski）CEOは、「これで米国が、グリーン水素の地図上に載る」と話す。
現在、水素のほとんどは化石燃料の精製や肥料の主成分として使われており、その総需要は年間約9400万トンと推定される。しかし、水素は燃焼時に水蒸気を発生させることから、低炭素代替燃料のほとんどない海運業から鉄鋼業に至るまでの様々な産業で、石油やガスに代わって使用できる。それゆえ以前からグリーン燃料だと考えられてきた。
IEAでは、世界が気候変動目標を達成するために、2030年までに水素の生産量が2倍以上、2050年までに5倍以上になると予測する。
問題は、水素は単体ではほとんど存在せず、水や天然ガスなどの化合物から分離しなければならないことだ。特に、現在のように天然ガスから水素を製造する場合、そのプロセスは高価なだけでなく、多くのエネルギーを必要とし、大量の二酸化炭素を排出する可能性がある。
ゴールドマン・サックスが今年2月に発行したレポートによると、最も安価で最も汚い（クリーンではない）方法で製造された水素でさえ、1kg当たり1ドル強必要で、これは米国の天然ガス価格のおよそ2倍に相当する。コロンビア大学国際公共政策大学院のグローバル研究者アン・ソフィー・コルボー（Anne-Sophie Corbeau）氏は、自然エネルギーを使ったグリーン水素の製造には1kgあたり5ドルものコストがかかると試算する。
貯蔵や輸送など他のコストを含めると、水素を化石燃料に代用していくには高価になりすぎると、コルボー氏は指摘する。
エアープロダクツ社のセイフィ・ガセミ（Seifi Ghasemi）会長兼CEOは、「米国の新しい税額控除は、特に風力や太陽光を利用して水素を製造するプロジェクトにおいて、価格差を縮める大きな役割を果たす」と述べた。同社は1kgあたり約5ドルの税額控除を受ける見込みで、これによってエアープロダクツ社はバイヤーに対し、依然割高ではあるもののそれほど高すぎない価格で販売できるようになると同氏は述べた。
ガセミ会長兼CEOは「エアープロダクツ社はすでに年間約350万トンの水素を製造する世界最大の水素メーカーだ。当社では、テキサス工場で製造するグリーン水素を、気候変動に敏感な産業界の顧客や、温室効果ガスを排出しない燃料を探しているトラック運送会社などのユーザーに販売する計画だ」と語った。
工場の規模が拡大し、炭素回収や水素を水から分離する電解槽などのコストが下がれば、低炭素型水素の価格も下がるはずだと、業界の専門家は指摘する。
エアープロダクツ社は、クリーンエネルギー技術を用いた他の水素工場に投資しているほか、既存工場をより環境に配慮した工場へと改修する計画もあるという。ガセミCEOは「2035年までに、すべての工場で低炭素水素を製造できることを目指す」という。