2023/01/07 『幻の弦楽器 ヴィオラ・アルタを追い求めて』
土曜日 くもり時々雨
早くも今年一番かと思われる本に探し物をしていた図書館の棚で出会ってしまった。
平野真敏『幻の弦楽器 ヴィオラ・アルタを追い求めて』。
ノンフィクションとは思えない、めくるめく大スペクタクルは、楽器をめぐる時空を超えたミステリー。
著者は一流の奏者でありながら、文筆にも長けていて、美しい描写にうっとりする。
なかでも秀逸だったのはパガニーニの『グランド・ヴィオラとオーケストラのためのソナタ』の説明の部分。
曲の進行に合わせて細部まで美しい言葉で奏でられる文字による音楽。
たいていこういうのは成功している例はあまりないけれど、著者はさすがに演奏する人だけあって、音を聞かずに、譜面も見ずに、想像をかきたてられる。
そうして文字で「聴いた」この曲をヴィオラ・アルタで聴いてみたい衝動に駆られる。
シロート耳にもたいへんな超絶技巧の連続のようだけど…。
そうは言っても音楽は聴いてなんぼ、この曲ではないけど、著者によるヴィオラ・アルタの演奏がSpotifyにも、YouTubeにもありました。
ヴィオラ・アルタ、確かに大きい。
これを聴く限りはビオラにもバイオリンにも似ていない、素直な優しい音がする。
たまたま、テレビでマリオ・ブルネロのチェロピッコロを聴いたところで、もしかしたらこの音に似ているのかも、などと夢想している。
この本で唯一残念だったのは、著者の平野真敏氏が2020年に既に亡くなっていること。
ヴィオラ・アルタの演奏を聴く機会も、新しい本を読むこともないのかと思うと、とてもとても残念だ。