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進化をとめて生き残れ!

楽しみにしていた本が届き、さっそく読み始めてみた。しかし、どうも期待していた内容とは少し違う。小難しい言葉が並び、まるで説教を受けているかのような気分だ。肩書のある偉い人たちのありがたいお言葉だからと、無理にでも読み進めようとしたが、途中からは流し読みになっている。心にモヤモヤとしたやり切れない気持ちが残る。活字で埋め尽くされたページから目をそらすと、ふと目に入った児童書に手が伸びた。大きな文字とカラフルなイラストが、まるで冷たい麦茶のように体に染み渡る。

ぱらぱらと見るだけのつもりが、気づいたら最後まで読んでいた。「知れば知るほど好きになる 科学のひみつ(高橋書店)」という児童書で、動物や身の回りのこと、そして宇宙についての不思議がつまっていた。あるページで、可愛らしいニワトリがこんな解説をしてくれた。

本当の『進化』
どんな生き物でも、環境に合った特徴を持つと生き残りやすくなります。世代交代するうちに、やがてその特徴が種の全体へと増えていくことを「進化」と呼びます。決して進化=パワーアップではないんですよ。


なるほど、そうだよな、と頷いた。だが、普段「進化」という言葉を使うとき、その言葉にはパワーアップやレベルアップの意味合いが含まれていることが多い気がした。普段使いの「進化」と、自然界での「進化」は、同じ漢字を使っていても意味が違うのかもしれない。

とはいえ、私たちの日常もまた、壮大なスケールの「進化」の一コマであるわけなのだから、私は可愛いニワトリが言う本当の「進化」を日常に当てはめる遊びを始めてみた。

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多くの大人が職場に出勤し、子どもたちは学校へと向かう。誰もが何かしらの組織に所属し、1日の大半をそのメンバーと過ごして同じ空間を共有する。家族と過ごす時間よりも長いかもしれない。この環境に適応するため、私たちは日々「進化」しなければならない。生き残りがかかっている!まずはリーダーにご挨拶し、裏ボスが誰なのかを把握する。仲良くなり、可愛がってもらえれば生存率が上がるかもしれない…。いま流行りの髪型、メイク、制服の着崩し方、自分だけが取り残されないよう環境に合わせていく。そうして、似たような雰囲気を持つ同僚や、同じような格好をした子どもが組織全体へと増えていく。ミクロな世界でも「進化」が起こっていた。

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夏休みが半分を過ぎ、学校のことを考えると憂鬱になる時期がやってきた。これは誰しもが抱く感情で、大人だってそう。休み明けの出勤は、体が鉛のように重たい。空気を読んで周りに合わせることに、大人も子どもも忙しく疲れてしまう。ただし、これに腹痛や頭痛、大きな不安感等が加わってくるなら、それは心と体が「学校に行きたくない」とSOSのサインを発しているのかもしれない。

日々の生活の中で、私たちは社会や環境に順応し、ミクロな「進化」を遂げている。と言いたいところだが、それは「進化」ではなく、ただの「画一化」だった。画一(かくいつ)の意味を調べると「何もかも一様にそろっていて個性や特徴がないさま。一つの枠にはめ込むさま。」とある。社会は爆速で画一化されている。うまく順応していくことだけが、その中で生き残っていく手段なのだろうか。もしそうであるなら、この世界はなんて退屈でつまらないものだろう。

しかし、実際の世界はそうではない。至る所で「私はここにいる!」と声を上げ、闘っている人たちがいる。いま苦しいと感じるのは、心の奥に閉じ込めているパワフルな感情が暴れ出しているからかもしれない。だからこそ、進化をとめて生き残れ!自分が心地いいと感じる場所や、人との出会いは必ずある。世界は思っているよりもずっと広く、美しく、そして優しさに満ちている。

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