第三章:マイクロマネジメント上司体験記③兆候
あらゆる交渉事は自分の思い通りにならないと気が済まない、上司D。
この時、重要な交渉がいくつか重なり、Dからの指示でプレゼン資料を準備していた。
私は既にこの時点から思考に靄がかかり始め、発想力を欠いていた。
それでも、この上司Dにどうにか認めてもらいたい気持ちが強く、あきらめずに朝から晩まで頑張ってしまう。
資料の直され方が過酷だった。
まず、一回でOKという事はない。
提出する→赤ペンだらけ→全て直す→最初に直されなかったところに赤ペン→直す→最初に赤ペンつけられたところを直される→直す→またどこか直される→提出や印刷の締め切りが近くなり、しぶしぶ妥協しOK
いずれの仕事においても、この連続で。
スムーズに進めば2日で終わるような案件が一週間引きずられるなんていうのもざらだった。
このサイクルに飛び込むのがいやで報告も遅れがちになったりもした。
結局、上司Dは感覚的にしか掴んでいないのに、思い付きで修正指示しマネジメントした気になっている。
論理的な物言いで、あれこれ諭すのだが簡単なことを難しい言葉で指示してくる。結局ロジカルにはなっていない。
そんな変な人、放っておけばいい。
そう思える人は健全な心理状態を持つ人の発想。
共依存の傾向を持つ人間は、自力で自尊心を生み出す事ができないので、
上司や配偶者など、近い存在の評価を頼りにしてしまう。
それが良いように認められている間は問題ないが、相手が批判的な場合は非常に苦しむことになる。そして割り切れないのだ。
最も理不尽だと思ったのは、交渉においてDは必ず「喧嘩越し」を強要した。
彼の以前所属していた部署では、当社が上の立場として交渉をしていた相手だが、今のこの部門では圧倒的に相手に頼る状況になるので、交渉もスタンスを変えなくてはならない。
にもかかわらず、「何故あっちはそんなに非協力的なのか!!やる気あるのか!と言え!」などなど、不本意ながら取引先に圧迫交渉を行う。
取引先に申し訳ない気持ちがあったが、受話器の横に常にスタンバイして高圧的態度を強いる上司には負けてしまう。
結局それで、関係を「わや」にしたケースもある。
力関係やwin-winなどお構いなしである。
だからこそ、喧嘩してむしろうちと関わらない方が取引先は幸せだななんて思う事もあった。
私の高圧的なやりとりを聴いていた次長が「そういうスタンスだと、ダメなんだけどなぁ」と後からポツリ。私もそう思う。しかし、私にアドバイスをするのは、Dがいないときだ。
ルーチンを行う人材が不在な中でそれをこなしながら、交渉事のために資料を考え、直接営業として出向いたり、そして営業企画の仕事らしく販促立案なども行う。
正直なところ、午前様になるまで仕事をすること自体はそんなに自分にとってはつらいことではない。
それよりも、今発揮できる自身のパフォーマンスを最大限に仕事に出しても、決して得られることのない承認が皆無なのが辛かった。
自信がないから、何をしたって良いものはできるわけがない。
自分の為して来たことに次第に意味を感じられなくなり、それを補うために残業をしてきたがそれすら意味のないものに思えてきた。
週末は体が動きづらくなり、朝の憂鬱感にコントロールがきかなくなってきた。
細かいミスが増えてきた。明らかにDは私に疑問を抱いていることがわかった。
そんな中、とうとう大きなミスを発生させてしまうのである。