【リレー】あなたの好きな映画は?
人に薦めたいわけでもなく、それに関する有益な情報や深い解釈を持つわけでもなく、ただただ「好き」な映画は何かと聞かれたら…『ブリキの太鼓』と答える。
1979年公開のドイツ映画。第二次世界大戦中のダンツィヒ(現ポーランド、グダニスク)を舞台に、三歳で成長を止めた少年オスカルが見た奇妙な世界を描く。
劇場で観た記憶はなく、恐らく中学時代にテレビで観たのが最初だろう。その後、レンタルビデオを借りてきて観たかもしれない。
とにかく衝撃だった。
美しさと醜悪さ、生々しい愛欲と切ないノスタルジー、悲しさと滑稽さが混在している。ストーリーとして何か明確なメッセージがあるわけではない。あったとしても深すぎて中学生の私に理解できたはずもない。
ただただ、次から次へと出てくる奇妙な登場人物たちと異様なエピソード、そしてヨーロッパ的な美しく陰鬱な背景に私は魅了されたのだ。
ダンツィヒ、ラーヴェス通り、カシュバイ人、じゃがいも畑、ニシン、墓地の狂人、サーカス団、ブリキの太鼓…
こうして思い出せるワードを並べると、寺山修二の世界に近いかもしれない(そう、私は80年代の「そういう子」だったのだ)。
いつかその世界を見てみたくて、私は英和辞典の表紙裏の世界地図にGdanskの名前を見つけ、シャーペンでグルグルとそれを囲った。
結局、今にいたるまでダンツィヒには行けていない。
それでも私が訪れた唯一のヨーロッパの国がドイツなのは、『ブリキの太鼓』の影響だろう。友人が住むデュッセルドルフやベルリンを軽く観光したが、残念ながら『ブリキの太鼓』の世界は見つからなかった。まあ、1940年代のダンツィヒを2000年代のベルリンに求めても…という話だ。ただ、ベルリンの「ホーフ」と呼ばれる建物の裏庭を覗いて回り、オスカルが近所の悪ガキたちにカエルやおしっこや唾が入った「特製スープ」を飲まされたのはこんな場所かなあ、と無理やり感慨にひたった。
この映画、休日の時間があいた午後にちょっと観ちゃおうかな、と思うには長く重すぎる。142分間がっつり没入できる時間と場所を確保するのは難しそうだが、これを機会にぜひもう一度観てみたい。
あなたの好きな映画は何ですか?