covered of

 男が絶頂する瞬間の、身体全体の震えを感じるときが一番、せつない。自分が達する時よりせつなく、かなしいようなさびしいような。

 不規則なリズムで小さな痙攣を幾度か刻み、緊張と弛緩を繰り返す男の身体を、わたしの粘膜すべてで包んでやりたくなる。それが望まれていなくても、そうしてやりたい。自分の母性のようなもののボリュームが全開になる。叫びたい衝動が穴という穴から溢れ出しそうになる。

 叫ぶ代わりに控え目な甘い声を出し、余った衝動で男のうなじを握った。

 暖房の効きすぎた室内はまるで熱帯雨林のようで、互いの肌は滑りながら隙間を埋めて密着した。ジョイント、接続、デバイス、と単語が浮かび、溜め息混じりの声に顔を上げると見下ろされていた。視線が交差し、男は力の抜けた上半身を控え目にあずけてきた。その重さを喜んで受け止める。開ききった脚の付け根は痛みを発信していたけれど、男のするに任せた。

 薄いラテックスの膜越しに繋がったまま、濡れた頬どうしを擦り合わせた。どんな愛撫より熱の籠もった動作に思えた。


 年上だろうか、と考えると予想よりマイナス3の答えが返ってくる。ひとつ年上だと教えてやると、お姉さんじゃん、と男は笑う。いっこなんて年上にはいんねーよおめー、わたしは言わずに微笑みかえす。男はもういく瞬間の無防備さはなく、男の顔に戻っている。それが寂しくて、もういっかいしてと強請った。

 もう一度、衝動は振り絞られこぼれる。わたしはやっぱりせつないかなしい気持ちになって、肌づたいに男のバイブレーションを全身で感じる。可愛い可愛い愛おしい。わたしのために男が震えているのだと思うと、愛情に似た執着心が湧いてくる。甘ったるい感情などたぶん、必要としないにもかかわらず。それでも男の腕や脚や唇が自分のそれと絡み合うと、細胞が昇格するような滑稽な優越感に浸れた。

 涙、汗、唾液、精液、それと追随する塩辛い液、男の身体から発信される体液の全部を残らず味わいたい。男の全部が欲しいし、受け止めたい。例えばそれが、みっともない動作であっても。むしろみっともない方が良かった。その方が、愛せる。

 怠い動きで唾液を交換したあと、有無を言わさぬ素早さで男の肩に歯を立てて舐めた。首筋からは、新しい汗がラインを描いて滑り落ちてくる。ふくらみを持ったその滴が、喉仏で引力に負けて落下するのを、遣る瀬内ない感慨を抱きながら、眺めていた。


いいなと思ったら応援しよう!