伯父と妖精のこと
先日、突然伯父から葉書が届いた。
伯父は、某有名大学の名誉教授で、私には到底理解できないような生物学などについて詳しい人なのだが、なぜか私たちはとても波長が合って、正月に父方の祖父母の家に家族が集合した際は伯父と話しをするのが密かな楽しみだった。
私が伯父と話すのが好きだった理由は、他人に笑われるような私の好きなものについて、伯父はいつも彼ならではの視点で真剣に議論してくれたからだ。そんな伯父から言われた言葉で、特に記憶に残っているものがある。私が大学時代、妖精について研究していた時、「人は、自分の脳が認識した世界で生きている。つまり、周りの人と同じ世界を生きていると思っても、実際は一人ひとりが、自らの脳によって認識している世界を生きているだけだから、きみと私の見ている世界も違うことだってあるんだよ。だから、きみの脳が妖精は存在する、と思えば、きみの世界では妖精は実在するんだよ」と教えてくれた。この話に、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。妖精のような非科学的な存在を、科学的に「いる」と証明してくれたからだ。以来、この考えは私の中の重要な指針の一つになっている。
そんな伯父だが、二度に渡り脳梗塞を起こした。大学を卒業してからは正月の集まりも殆どなくなってしまい、長らく会わない日が続いた。その後、祖父母の体調面からも親族の集まりはさらに減り、私も仕事や出産でバタバタとした日々を送っていたので、全く連絡を取らなくなってしまった。だからこそ、今回の突然の葉書には本当に驚いた。苦労しながら綴ってくれただろうその葉書には、私が何年も前に伯父に勧めたカズオ=イシグロの本について、最近自身のブログで紹介した、と書いてあった。私が当時、さりげなく紹介した本を読んでくれて、その内容を何年経ってからも覚えていてくれたことが純粋に嬉しかった。
伯父は正確には、私の父の姉の夫なので、私と直接血の繋がりはない。しかし、私は確実に伯父の考えから影響を受けているし、相手の考えを否定せず、真剣に受け止め、自身の考えと組み合わせて新たな発想を生み出すその姿勢を心から尊敬している。
伯父から届いた葉書は、以前(これまた突然)「何百年も前の時を封じ込めたものを送ります」という言葉とともに送られてきた琥珀と一緒に大切に取っておこうと思う。あと、次返事を書く際には、今気になっている本のことも、書いてみよう。