北村透谷私論(4)
〈昭和三〇年代〉
•平岡敏夫
研究方法の特色としては、透谷作品にある「観念的系列」「現実的系列」を単なる「分裂」としてではなく、統一的に把握しようとするところから出発していることが挙げられる。そして「現実を拒否し観念世界にわけ入りながら、しかもあくまで『国民』にかけることで生きようとする」ところに透谷の本質をみる。これらは四〇年代に入り『北村透谷研究』正続二巻(有精堂 昭和42•47)にまとめられる。
・色川大吉
思想史家としての企図から、明治精神史の深層を流れる「自由民権運動の地下水」を汲もうとする中で、透谷を民権運動の最良部を継承するとして位置づけ、勝本氏の年譜でも空白であった自由民権運動との関係の調査を行ない、透谷は「民権運動の精神を内面化することに成功」したと述べている(『新編明治精神史』中央公論社 昭43)。
〈昭和四〇年代〉
•桶谷秀昭
『近代の奈落』(国文社 昭43)では、透谷は近代に対する絶対否定の体現者であったとし、政治へも生活へも抜け道のない「情況の奈落」における文学により近代日本文化全体に対決しているとする。いわば文学から政治ヘという逆転を文学的に敢行した同書は『北村透谷』(筑摩書房 昭56)によって詩業に叙述を傾けて完結する。政治•歴史と決定的に対立する地点で透谷の観念世界を論理化し、文学的な質を追求する所に特色がある。
〈昭和五〇年代〉
•北川透
『〈幻境〉への旅ー北村透谷•試論Ⅰ』(冬樹社 昭49)『内部生命の砦』(同 昭51)『〈蝶〉の行方』(同 昭52)にまとめられた一連の論考は、桶谷氏の延長線上に、時代思想と切り結ぶ透谷像を描き出している。また「書くという行為の本質的自覚」に思想自立の根拠を求め透谷の強いられた近代のアポリアを同時代文学の表現水位の中に鋭く照明してみせた(『別冊国文学 新近現代文学研究必携』学燈社 平成4 中山和子氏を参照)。
(つづく)