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知恵熱が出そうになったマンガ(未完)

「私を構成する5冊のマンガ」! 素敵。5冊は選べないけれど選ぶとしたら……と考え始めたら、愛が暴走するも筆力がついていかず、ヘロヘロな感じになってきました。尻切れトンボですが、見ていただけたら嬉しいです。

山岸凉子『日出処の天子』

初めて読んだのは小5頃、耳鼻科の待合室でだったと思う。今考えればたいへんに貴重な、創刊間もない『LaLa』が置いてあって、そこに載っていたのは厩戸王子(のちの聖徳太子)が宮中の行事で矢を射る、というシーンだった。どういう話だか全然知らなかった。ただ、王子がさらりと片肌を脱いで弓を引き絞り、すべてがきりきりとつりあがった恐ろしい形相で「これより先の我が望み すべてかなうなら この矢よ当たれ!」と叫ぶ、その一コマが目に焼きついている。次の瞬間、びしりと的の真ん中を射抜く矢。
小学生ながら、その片肌脱ぎがひどく色っぽく感じた。

以下はうろおぼえなのだけれど、この後、彼を気に食わない大君に「すべての望みとは漠然としておるな…この欲張りものめが」みたいなことを言われた厩戸は「その漠然とした望みについては、これから考えさせていただきます」とクールに言い放つ。

厩戸は天才で、人の心を操ることができ、様々なことが見えすぎてしまう超能力者なのだが、「愛されたい者からは決して愛されない」という設定だった。よく考えたら「私が真に欲するものは 私には与えられない」という名セリフが、最後のほうにあったと思う。このシーンと響きあってすごく切ない。

『日出処』を全巻通して夢中になって読んだのは高3の頃だった。受験勉強もそっちのけでのめりこんだ。私はのんきな子どもで生きづらさに悩むタイプではなかったので、厩戸王子に共感というよりは、ファンとして読んでいた。王子を深く理解し、ある意味相思相愛なのに彼を選ばない毛人も、そのおおらかで鈍感なところが好きだった。毛人のバカバカバカ、なんで王子をわかってあげないんだ! と、当時多くの女子が悶えたように、私も悶えた。共感できるという意味では、毛人の妹の刀自古(いちばん行動的だけれど何一つ報われない)がいちばん好きだったかもしれない。
全巻読み終わったときは茫然自失でしばらく何も手につかなかった。関西の大学を1校だけ受験(もちろん落ちた)した帰り、法隆寺まで足を延ばして、知らないおじさまの団体に焼きイモをおごってもらったことを覚えている。

仏の訪れを見る、上空に昇って大気を動かす、なんて文字で書くとなんのリアリティもないことが、奇跡のように目の前に現れる。物語の最後のほうに、いくつも目に焼き付いて離れないコマがあるのだけれど、それはこのマンガが好きなかたといっぱい語り合いたいです。


萩尾望都『ポーの一族』

これも小5頃、親友だったMちゃんに「これ面白いよ!」と勧められた。Mちゃんはすごく興奮していた。私はなぜかこのマンガが怖そうだと感じて、はかばかしい反応を示さなかった。コドモだったから……たぶん彼女は私を物足りなく感じただろう。

ちゃんと読んだのは社会人になってからで、たしかマンガ読みのK子先輩が「萩尾望都読んでないなんてダメだよ!」といって貸してくれたのだと思う。読んだら、もう次の日は会社を休みたいくらいショックだった。

永遠の14歳を生きる少年たちの物語は、連作短編のような形で、バラバラの時系列ですすむ。『はるかな国の花や小鳥』『小鳥の巣』『一週間』など好きな話は数えきれないけれど、今回は『リデル・森の中』についてだけ。

森の中で、二人の少年・エドガーとアランに育てられた小さな女の子・リデル。
「森での生活は調和をもち 歌のように日びはすぎてゆきました」
「それでも時おりわけもなく 不安になったのはなぜでしょう」
この感じ、私の中では、お正月など特別な日に、いとこのお兄さんたちが一日中遊んでくれた記憶とつながる。楽しくて楽しくて、いつまでも終わってほしくないのに「絶対にいつかは終わる」という予感の中にいる感じだ。
リデルはどんどん大きくなるのに、エドガーとアランは14歳のまま。やがてリデルは森から出て彼らと別れ、街で暮らし始める。
あーあ、語れば語るほど良さが消えていく気がするので、このへんでやめておく。
読み終わった後の焦がれるような切なさは、薄れることがない。

最近読み返して気づいたどうでもいいことは、エドガーって生活力あるなあということ。エドガーたちはバンパネラ(吸血鬼)なので人間のような食事がいらないのだけれど、ちゃんとリデルにバランスの良い食事を(たぶん! リデルが元気な子に育ってるところをみると)させ、かわいい服を着せていた。髪のリボンなんかも結んであげてたのかな。毎夏住み替える家の段取りもつけてるみたいだし。
それと、小さく数コマしか出てこないリデルのだんなさんは、たぶんものすごくいい人だろうな、リデルは素晴らしい選択をしたに違いないということです。最後の1コマに小さく描かれた、決してハンサムではないけれどやさしげな表情は忘れがたいです。
「主人はなんのことかわからずに ただまゆをあげてほほえむのでした」

あと3冊…

大島弓子『バナナブレッドのプディング』

松本大洋『竹光侍』

ジョージ朝倉『ダンス・ダンス・ダンスール』

いずれも大傑作で、何日語っても終わらなそうで、読み返しただけで知恵熱が出そうになっていますので、今日はここまでにします……。
いずれ1冊ずつ、ゆっくり語らせていただきたいと思います。

あと本当は杉浦日向子先生の『百日紅』と、市川春子先生の作品も入れたかったのですが、それもまたいずれ…。
長々書いてしまったものを、ここまで読んでくださりありがとうございました。

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