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【連載小説】揺れる希望の虹(#2)

第1部:目覚めと初恋
第1章:揺れ動く心
節2「家族との日常、兄妹との比較」


真輝は、家族の中でいつも居場所が見つからないような感覚を抱いていた。父の浩二が工場の仕事で忙しくする一方、母は忙しいさなかでも時間さえ見つけては妹の奈央の服作りに夢中だった。兄の誠は、どこか「しっかりした子」という評価を受けていたが、実際にはそんなに意欲的ではなかった。父が工場の跡取りだと誠に期待しているのを感じてはいたが、誠はその話題になると曖昧に笑うだけだった。

「うーん、まだよくわからないよ。なんか、そんな気がしないんだよな」と誠が言ったことがある。父の工場を引き継ぐことについて、特に熱心ではない。まだ小学校高学年の誠にはそれなりの夢もあったのだと思う。父はその言葉を深く受け止めることもなく、誠がしっかりしているという「イメージ」に固執していた。

そんな中、真輝はいつも透明な存在のように感じていた。家族の中で、自分が何をすれば「ここにいていい」と感じられるのか、まるでわからなかった。

そんなある日、学校で発表会の準備が始まった。クラス全員が「役割」を持ち、真輝もその中で何かを求められることになった。真輝はできるだけ目立たないようにと裏方を願ったが、クラスメートたちは真輝を「ダンサーの一人」に推したのだ。

「お前、あんまりしゃべらないから、ダンスとかどう?」

その提案に、クラス中が賛成の声をあげた。真輝は、ただ静かに「うん」と答えるしかなかった。ダンスは、別に好きでも嫌いでもない。ただ、自分が人前で踊ることを想像すると、心が重くなった。更に心を重くしたのが5人で踊るダンサーが自分以外全員女子になってしまったことだった。

数日後、練習が始まると、それぞれグループになり役割を決めていく。裏方グループの男子たちは冗談を言いながら、適当にふざけながら作業をしていた。真輝は女子に混ざってダンスの練習をしていた。だが、真輝は体がうまく動かない。自分が踊るたびに、どこか変な目で見られているような気がして、ぎこちなくなってしまう。

「お前、動きが変だぞ!」

誰かがそう言って、笑い声が響いた。真輝の踊りがぎこちなくなるたび、周りはからかうように笑った。先生が「頑張れ」と言ってくれるが、その言葉もむなしく響いた。女子の振り付けのせいかカワイイ振りになっていく。

「ダンスなんか、やっぱりやりたくない……」

心の中でそう思いながらも、逃げ出すことはできなかった。家でもその話をすることはできない。父は仕事で忙しいし、母は奈央の新しい服のことで頭がいっぱいだ。誠に相談するなんて考えられなかった。誠はいつも「なんとかなるよ」と言うが、真輝の胸に重くのしかかる感覚は、「なんとかなる」ものではなかった。

そして、発表会の日が近づくにつれて、クラスの男子たちはますます真輝をからかうようになった。

「お前、なんか女みたいな動きだな!」
「お前もスカートはいて踊ればいいじゃん!」

冗談だとはわかっていた。でも、その言葉が、真輝の心に深く突き刺さった。周りが笑う声が一層大きく感じられ、真輝はますます体が動かなくなっていった。家に帰っても、クラスメートのからかう言葉が耳の奥で何度も反響する。母が奈央に新しい服を着せて微笑んでいるのを見ながら、ますます自分には居場所がないように感じた。

「奈央はいいな……」

その夜、鏡の前に立った真輝は、自分がどんな姿をしているのかさえ、わからなくなっていた。鏡に映るのは、ただそこにいる「男の子」の姿――だけど、その姿は自分の心と全く重ならない。一つだけ思ったことは、きっと女の子だったらからかわれなくて済んでるんだ…ということ

「僕は何者なんだろう?」

その問いは、誰に投げかけることもできず、ただ静かに心の中で響き続けた。

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