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【連載小説】揺れる希望の虹(#4)

昼休み、教室の外からはクラスメートたちの笑い声が響いていた。真輝は教室の隅で、黙ってその声を聞いていた。教室にいることが重苦しく、心が押しつぶされそうだった。自分は、あの笑い声が響く輪に入れない。何もできず、何も言えず、ただそこにいるだけ。

耐えられない――そう思った瞬間、真輝は教室を抜け出した。

廊下を歩いていると、真輝の耳にピアノの音が静かに届いてきた。足を止め、その音がどこから聞こえるのか探すように耳を澄ませる。音は音楽室からだ。真輝はその音に吸い寄せられるように音楽室へと向かった。

音楽室の前に立つと、ドアの向こうから優しいピアノの旋律が流れてきた。真輝は、その音に惹かれ、ドアにもたれてそっと座り込んだ。教室から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった真輝にとって、そのピアノの音は、どこか心を慰めるような響きだった。しばらくの間、真輝は目を閉じてその音に聞き入っていた。

「……」

静かで穏やかな音が、教室の騒がしさとは対照的に真輝の心を包み込んでいた。ピアノの音が止み、その余韻に浸っていると、突然――

「ガラッ」

ドアが開いた。

「あっ!」

真輝は、ドアにもたれていたため、バランスを崩し、思い切り後ろに倒れ込んだ。驚きで一瞬体が硬直する。真輝に驚いたのか、ピアノを弾いていた人物も動きを止めた。

「ごめんなさい、驚かせちゃった?」

顔を上げると、そこには若い女性の先生が立っていた。真輝が倒れてしまったことに驚いた表情を見せていたが、すぐに優しい微笑みが彼女の顔に浮かんだ。

「あ、あの、すみません……」真輝は慌てて立ち上がり、必死に謝った。

「大丈夫よ。怪我してない?」先生はにこやかに言いながら、真輝を見つめた。

真輝は顔を赤らめ、言葉に詰まってしまった。何をどう言えばいいのかわからず、ただ頷くしかなかった。

先生は軽く肩をすくめ、「聴いててくれたの?」と穏やかに尋ねた。

真輝はモジモジしながら、「……うん」と小さな声で答えた。

「そっか。恥ずかしいな、私、富岡先生みたいに上手じゃないから」と、彼女は少し照れくさそうに言った。

「え?……すごく良かったです……」真輝は、消え入りそうな声で答えた。

「ほんと?」先生は驚いたように、でも嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう。富岡先生の代わりで今日から臨時できている藤崎玲子って言います。一応、先生になるのかな、まだ慣れないけど、あなたは?」

「……森山、真輝です……」

「真輝くんね。よろしく。ピアノ、やってるの?」

「いえ…」

「弾いてみる?」

「……え?」真輝は目を見開いた。自分がピアノに触れるなんて、思いもしなかったからだ。ピアノは、特別な人が弾くものだと感じていた。

「どうかな?よかったら、ちょっと触ってみる?」藤崎先生は柔らかい口調で促す。

「……でも、僕……ピアノなんか……」真輝はモジモジとしていた。

「大丈夫よ。そんなに怖がらなくても平気。ピアノは気軽に弾くものだよ」先生は優しく言いながら、真輝を見つめていた。

真輝は戸惑いながらも、小さく頷いた。ピアノの前まで連れられて、藤崎先生がピアノの蓋を開く。弾いてご覧と言わんばかりに笑顔を向けている。恐る恐る人差し指を鍵盤に乗せ、静かに一つの音を鳴らした。その瞬間、音が部屋に広がり、真輝の胸に響いた。

「……すごい……音が…出た……」

その音は、真輝にとって何か特別なものだった。自分が音を出したという事実に、心が揺れた。

藤崎先生は優しく微笑みながら、「あなたが出したんだよ。ピアノって、自分の気持ちを音にしてくれるんだよ。あ、そうだ、お昼休みにいつも練習してるから、よかったらまたおいでよ。ひとりじゃ寂しいからさ」と、声をかけた。

「……え、でも……」真輝は驚きながらも、少しだけ嬉しさを感じていた。

「本当に大丈夫。好きなときに来ていいからね」と藤崎先生はにっこり笑って言った。

その言葉に、真輝はゆっくりと頷いた。そして、その日から、音楽室は彼にとっての新たな居場所となり、ピアノとの出会いが少しずつ彼の心に響き始めるのだった。


次回予告:

真輝が音楽室での新しい居場所を見つけつつある中、次回、ついに蓮が登場します。音楽室での出会いが、真輝の人生にどんな変化をもたらすのか――2人の物語がここから動き始めます。

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