古い洋画が心に沁みた 2024/12/01

映画の日。なのに見たい映画がなくて、探していたら、1994年公開のイタリア映画『イル・ポスティーノ』の4Kリマスター版があったので観てきました。
映画は1994年よりもっと古い時代を舞台にしていて、20世紀最大の詩人と謳われたチリの世界的詩人であり、外交官、政治家でもあったパブロ・ネルーダが共産主義に傾倒したことにより国外追放となり、イタリアに亡命したことをテーマとして扱っています。ネルーダがイタリアで滞在した小さな島は、水道も通っておらず、文盲の人もまだ多くて、漁師として生計をたてている人も多かったのですが、主人公のマリオはそんな生活にうんざりして働く気のない青年でした。ところが、ネルーダが島にやってくるために専属の郵便配達員が募集され、マリオがその職に就いたことから物語はスタートします。初めは女の子にモテたくて、ネルーダの詩集を買い、サインを貰おうとしたマリオ。でも、ネルーダの詩を読んで心を揺り動かされ、自分の気持ちが言い表されていた!と感動の言葉をネルーダに伝えます。それから少しずつ、マリオの詩ごころは発展し、ネルーダとの友情が進むとともにマリオの人生にも光が挿し、そしてマリオは恋をして、結婚します。しかしネルーダは国外追放が解除され、チリに戻ってしまうのです。ネルーダとの友情から詩だけでなく共産思想も受け継いだマリオは、ネルーダは国に戻ったら自分の存在など忘れてしまうと肩を落とします。でも、彼の中に根付いた詩ごころは、彼に自分が不満たらたらで住んでいた島の美しさを再発見させるのです。しかし。。。
わかっていたラストでしたが、改めて観て、そして、この映画の撮影のクランクアップ後僅か12時間で41年の人生を終えてしまった、マリオ役であり、脚本にも参加されていたマッシモ・トロイージと重なって、やはり少し泣いてしまいました。美しい自然や海、純粋な青年が詩、言葉を通じて自分の想いや周囲に溢れている美に開眼していく様子は、決して難しい言葉も描写もカメラワークも最新の機材も必要不可欠なわけではないと気づかせてくれます。確かにそういうものは映画を複雑にして、解釈をたくさん生み出して、その分、特別な1本になり得るかもしれない。でも、そんなものがなくても、世界は美に溢れていて、言葉でそれを知覚できるのが人間なのだ、と教えてくれるこの映画は、映画製作後30年、パブロ・ネルーダ生誕120周年となる今見ても、何ら古びたところはありません。

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