海外移住の決断に必要なもの|押す力と引く力
こんにちは、オーストリア在住で研究機関でマーケティングや入試広報担当として勤務しているKayと申します。
海外移住に限らずですが、自分の意思で、現状を変えて、何かしら大きな動きをするにあたって、強い「押す力」と「引く力」が必要なんだろうなあ、と考えることがあります。この2つが揃わないと、なかなか一歩は踏み出せない。
この2つの力が、例えば合計100になったときに動けるんだと思います。押す力20、引く力80でもいいし、その逆でもいいし、別に数字は何でもいいんです。
例えば自国で戦争があって、その国を出なくてはいけないとき、行先がどこであれ生命を繋ぐためにその場から離れるので、押す力100、引く力0くらいになるかもしれません。
もしくは、自国でもそれなりにいい生活はできるけど、すばらしい仕事のオファーをもらったり、よい進学先があった時などは、押す力20、引く力80くらいになるかもしれません。
仕事柄、ヨーロッパの各国大学に訪問するのですが、各地で出会うのは様々な国から来た学生たち。
とにかく多いのは、台湾、香港、中国系の学生。そして、ロシア人とウクライナ人の学生。日本人はほとんどいません。少子化とはいえ、1億人越えの人口の国とは思えないほど、本当に会わない。
それはやはり、「日本からでなきゃいけない」という「押す力」が非常に弱いんだろうなと思います。
日本で、日本人として生まれ、日本の教育を受け、就職して…というライフステージを進んでいくと、ほとんどの場合、最適化されたこの環境で特に問題なく生きていける。
そのコンフォートゾーンを、一時的であったとしても見捨ててまで、飛び出すには相当「引く力」が強くないと、二の足を踏んでしまうのは至極当然だと思います。
私にとって、今回の移住に当たって、押す力40、引く力60くらいのほぼ半分だったような気がしています。
押す力としては、前職に希望が見いだせなくなったこと、日本の教育をこどもたちを受けさせることがなぜか想像できなかったこと(良い悪いという基準ではなく)、同じ場所に長く住み続け(約8年)すぎてちょっと飽きてきたこと、など様々な方面で行き詰りを感じていたことがあげられます。
引く力としては、ウィーン近郊という立地、治安の良さ、生活水準・給与水準・教育レベルの高さ、(私好みの)娯楽の充実、新しい仕事の機会、キャリアアップへの可能性、以前ヨーロッパに住んだ経験からいつか戻りたかった、職場環境、ワークライフバランス、新しい語学(ドイツ語習得のチャンス)、より多様性のある社会に住むこと、自身の学びの機会、などなどなど上げていたらきりがないのですが、たくさんありました。
そして、これらの引く力を見て、切実に思うのです。
日本の学生たちよ!海外来て!こんな魅力あるよ!
と。
もちろんわかります、これはあくまで私の個人的に魅力として感じている「引く力」であることは。
特に大人になってからの海外生活は、向き不向きがより明確になりがちですし、海外大好き、海外経験も割と豊富、英語も堪能、傍から見ると精神ぶっとい私でさえ、今回の移住は正直こたえました。この1年はしんどさのほうが断然上回ってました。
でも、やっぱり見てほしいんです。
日本では想像もつかないことが海外で起こっていることを。
優秀な学生がわんさかいる日本。基礎力がとっても高くて、真面目で、礼儀正しくて、日本人の誇りであり、希望である学生たち。
世界でもっと学んで、もっともっと力をつけてほしいんです。
しかも、海外の優れた教育機関は、手をちょっとだけ伸ばせば届くところにあるんです。
残念ながら、押す力も引く力も強くても、ヨーロッパの大学や、研究機関で会わない人たちがいます。それはアフリカ諸国出身の学生。
彼らは他の先進国出身の学生に比べ、基礎力が著しく低く、同じ舞台に立つことができないのです。経済的サポートも容易に受けられない。もちろん、それは決して彼らの「自己責任」ではありません。
でも日本人は?基礎力も高くて、経済的にもなんとかなる人たちも断然割合が高く、やろうと思えばできる立場にいる。
語学が…という人はたくさんいます。日本人の英語や他言語に対するハードルの高さは、想像以上に立ちはだかっているんだ、と感じることがあります。
でも、日本人はそれ以外の部分で、技術だったり、能力、そして他国では逆に考えられない視野を持っていて、それってもっともっと世界に誇りをもって、広げていっていいと思うんです。
そして、ぐんぐん広がっていく自分自身の視野にも、ときめきを感じてほしいのです。
日本人は他国では考えられない視野を持っているといいましたが、それは職場で常々感じています。
海外経験も割とあるし、国際的な視野を持っているとは思っていたけれど、自分の考え方は相当日本人的なんだと思い知らされる毎日です。
多くの場合、日本だったら評価されていた部分が、どうも受け入れられてない感覚が拭えなく、日々調整しています。
しかしながら、大したこと言ったつもりがなくても「たしかにそれそうだわ」とストンと納得されることもあります。
以前、私の元上司が言っていました。
科学の世界だけに限らず、日本人がふと「あれ、これってこうすればいいんじゃないの?」と、日本では当たり前のことが、海外では名案となることもあります。
日本人学生が海外で非常に少ないのは、本当にもったいない。それは日本にとっても、世界にとっても。
この記事が、少しでも「引く力」になることを願って…