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ロバート・ジョンソン (2) 〜 右手の表現力(譜例あり) (2004.07.17)

ロバート・ジョンソン Robert Johnson (1911 - 1938) は、素晴らしい。偉大である。さて、どこが素晴らしく、何故、偉大なのだろうか?

「R. ジョンソンは、後世のブルーズ/ロックアーティストに大きな影響を与えたから。」と、よく言われる。実際、エリック・クラプトンやローリング・ストーンズ等は、「影響を与えられた」と語っている。ライター/評論家達の言うように、これらのロック・アーティストに影響を与えたから、凄いのか?本末転倒である。影響を与えたから素晴らしいのではなく、素晴らしいから影響を与えたのだ。ならば、どこが素晴らしいのか?同じく評論家達は「声の表現力」「精神性」を挙げる。これらは聴く人誰にでも伝わる要素であり、R. ジョンソンのそれらも、もちろん彼を卓越させている大きな理由ではある。しかしながら、豊かな「声の表現力」「精神性」を持つブルーズマンは、他にもいる。何が彼をして、かく偉大たらしめているのだろうか?彼の何が、「クロスロードで悪魔と取り引きをした」という伝説まで作り出したのだろうか?

それは、彼のギターの演奏力である。R. ジョンソンのギターが、他の同時代のブルーズ・ミュージシャンと彼とを、はっきりと区別しているのだ。

R. ジョンソンの演奏で特筆すべきことは、「右手の表現力」だ。親指でビートを刻みながら、他の指で高音のリフを奏でる。6弦全てを掻き鳴らすのでもなく、ヴォーカルラインとユニゾンを奏でるわけでもない。右手の親指とそれ以外の指が、ちょうどピアノの左手と右手の関係を為している。以下に掲げる譜例は、R. ジョンソンの特徴的なフレーズである。

“Kindhearted Woman Blues”、“Phonograph Blues” 他にみられる
典型的フレーズを標準化したもの。特定曲の完コピではない。

4、5弦を弾く親指のビートの強拍と弱拍のイントネーションをキープしながら、高弦のリフは、低弦と完全に分離して滑らかに奏されなければならない。

多少なりともギターの心得のある人なら、この2小節を弾きこなす為にどの程度の技量が必要か解るだろう。この譜例を初見で完璧に演れる人は、フィンガースタイルの達者な人か、クラシックギターの経験者だろう。プロ/アマ問わず、「ロックギター専門」「アコギじゃかじゃか弾き語り」の人には、俄には演奏不能なはずだ。1、2弦のユニゾン、及び半音程の、なんと美しく、繊細なことか!そして親指で奏でるビートの、力強さ!R. ジョンソンと同時代のミュージシャンにとって、この演奏が、悪魔と取り引きして得たとしか思えない表現力であったことは、想像に難く無い。

キース・リチャーズが「ふたりで演奏しているように聞こえた」「これを弾きながら歌うなんて、ヤツは3つの脳を持ってるのかよ!」と述べているのは、こういう理由である。また、「まるでバッハを聴いているようだ」という彼の言葉は、単に「古くて凄くて美しい」という意味ではなく、R. ジョンソンのポリフォニックな音楽が、2声3声のインヴェンションを思い起こさせたからである。

クラシック音楽の世界では、「ギターは、小さなオーケストラである」と言われる。この言葉に準えて言えば、「R.ジョンソンのギターは、小さなバンドである」。右手親指が繰り出す強力なバスドラムとベース。そして他の指が奏でる美しく鋭いリードギター。後年のロック・アーティスト達が影響を受けたのは、当然のことである。そして同時に、自ら音楽を作れず、演奏出来ないが故に、何でもかんでも文学的「精神性」に帰結させようとする者達にとって、R.ジョンソンの真の素晴らしさを理解することは、非常に難しい。

(2004.07.17)


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