‥こんな話しを聞いたよ⑥
④で聞いたマキトの昔住んでいたアパートの話。
前回は部屋のテレビから「顔」が浮き上がってきた話しだった。今回もアパートの話。
マキトのアパートその2
残業が続いた週の金曜。明日はやっと休みだ!という事でマキトは夜更かしをした。テレビのドラマ録画を消化し、気がつけば日付けも代わっている。眠ろうとベッドに入ったのが午前3時ごろだった。
少し目が覚めてきた時だった。自分の身体に違和感を感じる。ありていに言えば、「金縛り」という状態だった。
マキトが動けない!なんかヤバい!と思っていたら、つま先から身体が軽くなってきた。
少しずつだが身体が浮いてきているような感覚。
ゆっくりと、マキトの頭を起点に足が天井へ向いていく。
段々と角度がついてきた。45度を過ぎ、とうとうつま先が90度、つまり天井へ向いた。
マキトはぼんやりしながらこれって幽体離脱ってやつ?と思いながら、身体は逆立ち状態になっていた。
身体は凄く軽い。普通だったら頭だけで逆立ちなんて無理だろうなんて思っていたら、今度は頭が少しずつ枕に垂直に沈んでいく。口元まで頭が枕に沈んだ時、
うわ!これはヤバい!何とかしなきゃと思い、身体のコントロールは効かないが足が元の位置に戻るイメージを必死に考えた。
マキトの念が通じたのか、頭が枕の中から出てきた。そして頭を起点に少しずつ身体が倒れていく。45度‥30度‥20度。ゆっくりだが足は元の位置に戻っていった。
気がつくと、身体が動くようになっていた。窓の外はすっかり明るい。マキトが時計を見ると、午前10時を過ぎていた。
ってまぁこれだけだったんスけどね。と、マキトはタバコを吸いながらこともなげに言った。
私は、え?凄いじゃないマキト!それ本物の幽体離脱じゃない!と少し興奮しながら聞いた。
多分そうなんでしょうね。と興味無さげに言うマキト。
まぁ俺からしたら、そんなコントロール出来ない幽体離脱なんて迷惑なだけっスよ。そんな事より昼過ぎまで寝ていたかったっス。
え?その後、また幽体離脱出来たの?と私はきいた。
いやぁ、あの経験は一回切りっス。とマキト。その代わり金縛りはけっこうありましたよ。とさらっと言う。
金縛り‥かぁ。身体動かないだけじゃない。と私は言った。マキトは、動かないだけならいいんスけどねぇ。とタバコをもみ消し、なにか含みを持たせた言い方をした。
その話はまた後日。