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地上0.9m、数cmの攻防戦

 今日、担任している子の遊びを観察していると、面白いことをしていました。
その様子をお話ししたいと思います。

 彼は高さ90cmの鉄棒で遊んでいました。
一般的な使い方をすれば、クルッと前回りが出来る高さです。
彼が前回りが出来ることを私も知っています。

 ですが、今日、彼がやりたかったのは“鉄棒をまたぐ“ことでした。
足の長さが鉄棒の高さと同じ90cmなら簡単ですが、私はそんな3歳児を見たことはありません。笑

 というわけで、彼は踏み台になるバケツを持ってきて挑戦し始めました。

 バケツの高さは30cmくらいなので、60cmの高さをまたげばいい。
けれど、ここで彼は試練にぶつかります。

 足を置いておける場所が直径20cmのバケツの裏面。彼にとってはそこが命綱であり、そこを踏み外せば真っ逆さまに落ちてしまいます。

 つま先立ちでバケツの裏面に足を置きながら鉄棒の上にまたがり、左足をまたいでる間、右足と体幹と両腕で身体を支える。

 恐怖と達成感。彼はその達成感を勝ち取るために、試練に立ち向かったのです

 果敢に挑戦する姿を観察していると、ただでさえギリギリの攻防をしている中で、さらにギリギリの選択を迫られる場面が…。


自分の手が邪魔で足が抜けないのです。

 “さぁ、どうするのかな?“と私は給食の時間が迫っているにも関わらず見守り体制を崩しません。笑
 なぜならここに彼の試行錯誤のストーリーがあるに決まっているからです。

 “落ちたくない“、“なんとかまたぎたい“、“自分の力だけでやりたい“。

 10回を超える試行錯誤の末、彼はついに辿り着きます。


 身体と鉄棒を握る手の距離がほんのわずか数cmズレるだけで、足が抜けることに彼は気づいたのです。
 そこに至るまでには支える右足のバランス、体重の掛け方など目には見えないトライ&エラーもあると思います。何度も微調整を繰り返した末の栄光。

 1度できると、彼は出来た喜びを噛み締めるように、そして身体に覚えこますかのように、何回も同じことを繰り返していました。

 地上0.9m、数cmの攻防戦をを彼は戦い抜いたのです。

 子どもたちは毎日、大なり小なり成長しているんだなと思えた時間でした。

そして…
 これを大人(保育者)主導だったらどのように教えられていただろう?
 もしかしたら「危ない!」と言って止めていたかもしれない。
 そうしたら彼のこの成長はなかっただろう。
 危ないのであれば、安全なこれに似た動作をどのように作ろう?
 けれど、それを子どもは喜んでやるだろうか。

とも考えました。

 彼が必死に数cmの攻防戦をしている中で、私の頭の中でも理想と現実が攻防戦していたのでした。

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