厚塗り
厚く。
厚く。
塗っていく。
塗り固めて。
塗り固めて。
塗り潰す。
私のひと撫で、ひと撫でが。
何層も。
幾重にも。
積み重なって層になる。
薄い。
薄い。
その結果。
時間の積み重なり。
私と。
あなたの。
記憶と、思い出。
「志摩さん」
「はい?」
「志摩さんちのベランダにあるやつ、アレ…なんなんですか?」
「主人です」
「え?」
「主人を想って毎日少しずつ塗り上げています」
「この…古墳みたいな土の…山を、ですか?」
「そうです。毎日、主人との日々に感謝して。その感謝の印を毎日こうして土を塗っていってるんです。日記を書くとか、そんな感覚です。私は小さい頃から土をいじるのが好きだったので」
「それでこんな…もう、志摩さんの背丈を超えてますよね」
「そうですね。それだけ、私の想いが積み重なった、って事だと思ってます。土のひと撫で、ひと塗りに想いを込めていますから」
「はぇ~…、すごいなぁ…」
「ありがとうございます」
「そう言えばご主人、元気でいらっしゃますか。最近あまりお会い出来てなくて…」
「ええ」
「また囲碁の相手になって下さい、ってお伝え下さい。やっぱり本と睨めっこして打ってるだけじゃ物足りなくて…」
「わかりました。伝えておきますね」
「それじゃあ私はこれで」
「ごきげんよう」
高く。
高く。
積み重なった山を撫でる。
「ですってよ、あなた」