金の斧と欲張りな木こり 3
「ただいまー」
「ん、おかえり…って、今日も収穫ゼロなん?」
「だってさー! ねぇちょっと聞いてよー!」
「はぁ? 私らの魂胆、その人間にバレた訳?」
「そうなの! 私たちの鉄ガッポリ計画! ソイツったらなんかゴチャゴチャと理屈こねまわしてさー、『これはあなたたちが鉄を得る為の方便ですね』とか言うんだよー! ムカついたわー! あの時のアイツのドヤ顔!」
「…んで? お前それ認めたの?」
「いやまさか! 認める訳ないし! めっちゃムカついてたけどチョ~頑張って女神スマイルしてさ、それは違うぞ人間って言ったの私!」
「じゃあなんて説明したんだよ。聞かれたろ、理由」
「いや…まぁ、なんとなく女神オーラ出して煙に巻いといた…って言うか……だってさ! いきなり図星突かれて焦ってたし! でも女神が人間にQEDされましたとかナイじゃん?」
「沽券に関わるわな」
「でっしょでしょでしょ?! それにさぁ、ソイツその後なんて言ったと思う? 鉄が不足してるんなら私が鉄を持って来ますから金銀と交換しましょう、って!! 女神相手に商売しようとしてんのソイツ! ホント信じられないんだけど! 何様って感じ!」
「…いや、それはお前」
「え?」
「確かに私らの狙いをズバリ言い当てられたら私だって泡食うわ。けど、私だったらその申し出、受けるぞ。私らの目的はあくまで鉄を手に入れる事なんだからな。日がな一日、いつ落ちて来るか分からない鉄を待ってるよりずっと効率良いべ」
「な……! ち、違うし! 私だってそれは、そう、思ったけど…! けどさぁ…! だってソイツ、自分の説を証明する為に最初にわざわざ金と銀の斧だけ落として来てさぁ、試して来てんの! 女神を! …私を!」
「確かに鉄営業やってて、わざわざ金の斧を落として来る奴なんて見た事ないもんな。金の斧が落ちて来たら私も多分キョドる。え? 金要らんの? ってなる」
「でっしょー? だからさぁ、もうホント無理って思ったの私! コイツは生理的に無理、って! アンタも絶対そうなるって!」
「けど鉄大量獲得のチャンスだべ? 逃す手ねーべ? 昨日の正直な人間? だっけ? にだって結局お前、鉄の斧まで律儀に返すしよぉ。アイツらにとってはとりあえず金って価値あるっぽいから、金銀渡しとけばそれで良いんだって」
「で、でも……! あの正直人間はなんか、ホラ……私の事『すごい綺麗~!』って感じで崇め奉りまくって来たし……なんか、話してみた感じ、お金の為じゃなくて生き甲斐…? の為に木こりやってるっぽかったから、鉄の斧ないと明日から仕事出来ないかな、って思って…」
「チョロ過ぎんだよお前! そう言うトコなんとかしな、っていつも言ってんだろ! だからいつも業績悪いんだろーが! このお花畑!」
「な…! うっさい! だいたい昨日はアンタが仕事代わってって言うから代わってあげたんだし何よその言い草!」
「仕方ねーべ! 服乾いてなかったんだし! まいんちまいんち仕事で服ビショビショでよー! 生乾き臭のする女神とかねーし!」
「だからもっと服買えって言ってんじゃんいつも!」
「うるせーな! お前がバカバカ服買って、一回着ただけの服『もう着ない』とか言ってどんどん服寄越してくるから自分で服買わねーんだよ!」
「その割にあげた服着てんの見た事ないし!」
「着るかあんな服! てゆーかお前が寄越してくる服は大体服じゃねーんだよ! この前のだってなんであんなに肩広がってんだよ! 試しに着てみたら肩幅が5倍ぐらいになったわ!」
「最先端のファッション舐めんなよ!」
「…いや。そうじゃない。落ち着け。話を戻すぞ。その人間の話に乗っかって鉄交換ビジネス始めろよ、って事だよ。お前の業績も右肩上がりだって」
「…いや、ムカついたから女神オブラートに包んでもう会わないって言っちゃたし…」
「アホかお前は! ちょっとしたすれ違いから別れを切り出す女みてーな事言ってんじゃねー! 明日からずっと湖に立ってソイツ探せ! 謝って事情話して契約交わせって!」
「ヤだよ! 気まずい! そんなの言ったらぜったいアイツまたドヤ顔するし! あの顔ホントキモい! 無理! ゼッタイ無理!」
「じゃあ良い。私が行くわ。ビッグチャンスは私がモノにする」
「ちょっと! やめてよ! アンタが行ったらアタシが嘘ついてたのバレんじゃん! 嘘つきダメ、って言ってる女神が嘘ついてたって噂広まるじゃん! そんな噂流れたらもう湖立てないし!」
「………………チッ。じゃあどうすんだよ。ウチの担当地域、全然業績上がってねーんだぞ。お下はもっと鉄寄越せって言ってっしよぉ。このままじゃここら一帯取り潰されて終わりだぞ」
「分かってるよ! 明日からちゃんと頑張るし! あそこの湖……は、ちょっとしばらく無理だから場所変えて、斧じゃなくて……そうだ剣! 剣とかさ、鎧とか…! 戦争! 人間が戦争やってる場所でさ、鉄営業しよ!」
「今この辺り、戦争やってんのか…? …調べとくよ。 まぁ、お前にしちゃ珍しく悪くないアイデアだ」
「でっしょでしょ!? ……はぁ~、良いよなぁ、昔は。昔は黙っててもどんどこ鉄が入って来てたんでしょ? そんな勢いのある時代に生まれたかったわー。今は世知辛いわー。ストレスでまた服買っちゃうわー」
「服は買うんじゃねー。…でも今が辛いのは確かにな。まぁ、またソイツみたいな頭の切れる奴と出会えたら今度こそ逃がさないようにしとけよ。下の連中に鉄送らないと困るのは結局私達なんだからな」
「はいはい、下の下の偉い連中が鉄で世界を作ってくれてるって話でしょ。はぁ……こんな地道な仕事しなくても、黙ってたら川や海に鉄が流れてくる時代にならないかなー」
「人間は何すっかイマイチよく分かんない生き物だからな。しばらく待てばそんな時代も来るかもな。その木こりも地上で何か一発デカい事やるかもしんねーし。それに期待すんべ」
「んだね!」
「おう」
「鉄の黄金期の再来は近いぞー!」
「鉄の黄金期って鉄なのか金なのかどっちだよ」
「じゃあえっと……、黒鉄期の到来は近いぞー!」
「おー」
おしまい
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